Novel-GS3外伝(長編)
□序章
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鼻腔をくすぐる海の香りに、琉夏は目を覚ました。
いつもと何も変わらない朝。
薄く瞳を開いてぼんやりとまどろむ。朝はあまり得意ではない。
ぼやける視界の向こうに、レースのカーテンが風に膨らんで大きく揺れているの見える。
ああ、そう言えば窓を開けたまま寝てしまったんだった。確か昨日は静かで月がとてもきれいな夜だった。
季節は秋。
頬を滑る潮風もだいぶ冷たくなってきた。
琉夏はシーツを深くかぶり直す。
だけどそれは寒いからではなかった。
「あったかい……」
夢心地のままそのぬくもりを抱き締める。
(ん?)
途端に琉夏の意識は覚醒した。
腕の中で見知らぬ少女が静かに寝息をたてていた。
(誰?)
琉夏は不思議と驚きもしなかったし嫌な気もしなかった。ごく自然に少女が自分の腕の中にいることを受け入れていた。だから少女の小さな体に回した腕を振りほどくこともしなかった。
琉夏の頭はただ冷静に自分が置かれた状況を把握しようとだけ動いていた。あくまで慌てず客観的に。
改めて少女を眺める。
どこかで見たことがある気もする。
だけどそれがどこかはてんで思い出せなかった。
それに昨日の夜の記憶だって鮮明だ。
バイト先から呼び出されて休日出勤。帰って来て飯食って風呂入って寝た。それだけだ。こんな子を部屋に連れ込んだ覚えはない。状況的にはいわゆる「朝チュン」だが、自分がそんなへまをしたとも思えないし、押し込み強盗にもとても見えない。
(あ、もしかして……夜這い? もう朝だけど)
そこまで考えて、自分の推理に思わず苦笑する。なんだかバカバカしい。だいたいが何かを考えるにしては情報が少なすぎた。
それに――――。
(まだ眠い)
琉夏は再び瞳を閉じた。
コウに見つかったら怒られるかな。
ただ漠然とそんなことを考えながら、眠りに落ちて行った。
日曜日の早朝。
二つの寝息が重なって溶けていく。
そして、琉夏は夢は見た。
そこでは、まだ幼かった自分が、ただ幸せそうに笑っていた…………。
→第一章