Novel-ギャグマンガ日和

旅の途中
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「パンらはぎぃ!!」

 ある日の昼下がり。
 芭蕉さんの中年にしては甲高い声が、柔らかな日差しが差す街道に響き渡った。
 ちなみに『パンらはぎ』とは芭蕉ワードの一つで、ふくらはぎがパンパンの状態のことを指すらしい。

「曽良くーん、もう歩くの疲れたよ〜〜〜〜〜。松尾、体力の限界」

 太ももを抱いた状態で道に仰向けに寝転がった芭蕉さんが弱音を吐きまくっている。

「ねえこの辺でちょっと一休みしようよー」
「しっかりして下さい芭蕉さん。さっき休んだばかりでしょう?先を急ぎますよ」

 曽良くんが心底呆れたような顔で、地面に突っ伏し駄々をこねる芭蕉さんを見下ろしている。
 その視線は死ぬほど冷たい。
 鬼弟子の曽良くんには私も以前首をもがれ目と鼻をぬいつけられたという思い出したくもない苦い記憶がある。
 出来ればこの人をあまり怒らせるようなことはして欲しくない。

「無理。もう一歩も歩けない」
「ったく、困った弱ジジイだ……」
「休憩!休憩!!」

 両手両足をばたつかせ唾を飛ばしながら叫ぶ芭蕉さんを曽良くんが絶対零度の眼差しで見下ろした。

 そして。

「……しょうがないですね」
「えっ!休憩させてくれる…………のぉぉおおおおおおっ!?」

 曽良君は表情一つ変えずに、喜色を浮かべて上半身を起こした芭蕉さんの首に縄をかけると、そのままずるずると引きずり始めた。
 両脇に松の木が生い茂る街道にオッサン一人分の幅の轍が延々と刻まれていく。

「曽良くん!?これ死んじゃうって!いやっ、ホント、ちょ、待って、嘘!?えっ……ぁぁ…………ヒイイ〜〜〜……っ!!!!」

 やがて、街道から芭蕉さんの声が消えた。



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