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□きれいな殺し方
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主人公の職業はころしやです。











今日は暗い闇の空に浮かぶ三日月が美しい日だ。

血のついたクナイを払うと、辺りに血が飛び散る。
ポケットに入れておいた白いハンカチでクナイをふき取ると赤い染みが大きくできた。

目の前の人間は死んでいる。私が殺したのだ。
部屋中に広がる鉄のにおいに、鼻はもう慣れたのか最初のような吐き気はまったくない。
そして、私は心も慣れてしまったらしい。罪悪感なんてものはちっともわいてこなかった。

「あれ、また君か」

血まみれの部屋に妙に明るい声。
私の後ろに降り立った黒ずくめの男が発したものだった。

「…また、あんた」

この男は真選組の監察らしく、時々私が殺すターゲットと彼の監察するターゲットが被ってしまうことがあり、よく出くわす。
はじめは声もかけずお互い黙っていたのに、いつからかこの男は私に声をかけてくるようになった。

こんな、"人"でなくなってしまった私に、なぜ声なんてかけるのだろうか。

「今日もきれいに一刺しかあ」

男が足を使って殺した人間を仰向けにさせて、じろじろと見回した。毎回のことなので気にはしなかった。

「ああ、俺ももうちょっと君みたいにきれいに殺したよ」

そう言って慣れた手付きで自分クナイを取り出し、ぶんぶんと振り回す。

「…殺せればいいじゃない」

目的は殺すことだ。きれいな殺し方とか、汚い殺し方なんて関係ない。
そういうと男はクナイを振り回すのをやめて、こちらに視線を向ける。
闇の中で浮かぶ男の瞳は、同じく闇の色だった。

なのに、ギラギラと光っているように見えるのはなぜだろうか。

「違うんだ」

男の唇が上がっていくのがわかった。

「俺、ターゲットをぐちゃぐちゃにして殺すのが大好きでさあ。よく上司に怒られちゃうの」

まるで、空に浮かんでいる三日月のように、男の目が細くなる。
今までめったに恐怖なんて感じたことのない私でも、心臓がどくりと震えた。

「困ったよ」

ぶんぶん
男はまたクナイを回し始める。

「俺、どっからおかしくなったんだろう」

ぶんぶん
静かな部屋で響くその音が異常に耳につく。

「君も、この仕事長いんでしょう?」

返事はしない。
でも男は私が返事でもしたかのように、笑ってうなずいた。

「俺も、長いんだ」


ぴたりと、クナイをまわす音がやんだ。


「俺も、君も、もう"人"じゃないんだよね」

そう、私は"人"じゃない。"人"の心を忘れてしまった。

「じゃあ、俺ら、気が合うんじゃない?」

普段足音を出さない男は、わざと足音を立てて私に近寄ってきた。
どうしてか体が縛られたように動かない。普段なら、すぐに相手を殺すのに。すぐに逃げられるのに。

「俺、君のことが、好きなんだ。出会った時から」

すっとクナイが顔に近づく。わずかな月の光で、それは銀色に光った。
つ、とクナイが私の頬に当たった。心臓が鷲づかみにされたかのように、息さえも止まった。

殺されるときって、こんな感覚なのだろうか。


「君はぐちゃぐちゃにしないから、俺のものになって?」


そういうと男は、クナイを一気に振り上げ、私に振りかざした。


最後に見えたのは、血で顔を赤く染めた男の幸せそうな顔だった。


(君はきれいに殺せたよ)
(たしかに、あんたは"人"じゃなかったね)





100515 新咲(sssからひっぱりだしてきました)(09/12/11)


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