short2

□金曜、図書室で
1ページ/1ページ



私は本の虫というわけでもなく、ただ単に少し読書が好きなだけな文系人間だ。
たまに気が向くと放課後は図書室に立ち寄り、好きな本を読む。ただそれだけである。
今日もまた本を読みたくて、図書室に立ち寄った。

いつものようにオススメコーナーに立ち寄りいくつか本をパラパラとめくっていると、この間読んだ本がまだ読み終わってないことに気づいて、その本のところへと向かった。


「あれ、ないや」


思わず出てしまった言葉にハッとして口元を押さえた。
少し視線をずらすと『図書室では静かに』というポスター。
先生がいなかったことにほっとする。

お目当ての本は残念ながら誰かに借りられていたようだった。
あの本の続きは気になるが、ないものはしょうがない。また今度読もう。
そう思って私はまたオススメコーナーへと戻った。
さきほど見ていた本の中で面白そうな本があったので、それを手に取り、奥のテーブルにつく。
ここに座る生徒は少なく、私のお気に入りの場所であった。
今日は座っている人はいない。どうやら一番乗りのようだ。
やった、と小さな優越感に浸り椅子に座る。この硬い椅子だって私のお気に入りだ。
ぱらりと表紙をめくり、ページをめくると、私は自分の世界へと入っていった。


それからしばらくたっただろうか、がたりと椅子の引く音が近くで聞こえた。
私はそれを気にすることなくページをめくり続ける。
またしばらくたつと集中力が切れてきた。自分のしおりを本の間に挟み、しばらく休憩だとふうと息をはく。
すると視界にさきほど座っただろう人物が入ってびっくりした。

あの、柳君だったのだ。あの、テニス部の柳君。あの、人気者の柳君。
同じクラスになったことはなく、いつも図書室で見かけているだけだが(彼は図書館の常連生徒である)、ひとつ向こうのテーブルについたり、一番遠くの席に座ったりしていたため、こんなに間近見たのは初めてといってもいいほどだった。

そのため声をあげそうになったけれど「あ、柳君だ!」なんて知らない女の子に言われたら、あちらにしては迷惑であろう。
しかも特に何もない普通の私なんかじゃ、尚更迷惑だ。かわいい女の子だったら言われても嬉しかろうに。

まあ…いいか、別に私には関わりのない相手だし。

もう一度はずしていた視線をちらりとあちらに向けてみる。
柳君は真剣な表情で本を見ていた。それは、どこかでみたことがある本だった。

あの表紙、あのタイトル――


「あ、それ」


私の馬鹿。

そう後悔したときには「時既に遅し」といったもので、柳君は私の声に反応してこちらを向く。
目が開いているか開いていないかわからない、細い目がしっかりと私を捉えていることにドキッとした。


「なんだ、これか?」


そう言う柳君の声は静かで低く、心地よいものであった。
ここで無視するわけにもいかないため、私は先生に怒られない程度に声を小さくして「うん」と言って頷く。
柳君の口元が笑った。


「これを読みたかったんだろう」
「…え、な、なんで」


まるでそれを知っていたかのような口ぶり。驚いて柳君を見る。
口から出た声は妙に高くなってしまった。


「なんで俺が知っていたか、」


室内にはほかに人がいるはずなのに、まるでここが2人だけの空間のようだ。


「知りたいか?」


そう問われたのに、私は頷きもしなかった。
だって、わからない。なんで、柳君が私みたいなのにそんなことをわざわざ問うのか。

ただの――偶然じゃない?


「今、お前が偶然だと思った確率94%」


まるで図星だとも言うかのように、私の肩は素直に揺れた。
それを見て、柳君がくすりと笑う。
さっきから私、馬鹿正直すぎる…!
恥ずかしさのあまりに視線をテーブルに落とした。
柳君がこういうことを言う人なのは噂で聞いたことがあったが、本当だったらしい。


「…残念ながら違うぞ」
「え?」


その言葉に柳君に視線を戻す。
まだ口元が笑っているその顔をじーっと見つめた。
あ、髪の毛すっごいさらさらそう、なんて思いながら。


「いつも、だいたいお前がここに来るのは金曜が多い」
「…え?…そ、そう、かな?」


たしかに、思い出してみれば、金曜に寄ることが多いかもしれない。でも、なんでそんなこと知ってるんだろう…と疑問に浮かんだのだが、ただ柳君も金曜にくることが多いのだろうと勝手に自己解決してしまった。


「今、お前が俺は金曜に来ることが多いからと勝手に解決した確率89%」


また私の肩が正直に揺れる。

な、なんでわかるの!?


「伊達にテニス部の参謀をやっているわけではない」


まるで私の心の声がわかっているかのように語りかける。
なんだか嫌な汗がでてきたような気がしたので手を制服で拭いてみた。


「えっと、その、じゃあ、何で…」


このままだったら話が進みそうにないので、思い切って私からきいてみることにした。
結構話している気がするのだが、先生はまだ来ない。


「俺はお前をいつも見ていたからな」


柳君は何でもないかのように、さらりと、そう言った。
え、と一瞬、わけがわからなくなり、呆然と柳君を見続ける。

あれ、今なんて言った?私を見ていた?いつも?なんで?

混乱のためにくるくると回りそうになる目。
必死に悪くも良くもないこの頭で考えてみるが、やはりわけがわからない。


「よく考えてくれ」


がたり、柳君はいきなり席を立ち上がった。
そう言われなくても考えている。よく、考えている。でも、やっぱりわからないのだ。
ぐんと高い位置になってしまった柳君の顔。目があったまま数秒間が、とても息苦しい。


「これ」


見せられたのは、さきほどまで柳君が読んでいた本だった。私の読みかけの本。


「俺も、これが読みたかったんだ。お前の読みかけの本、がな」


私の読みかけの本が、読みたかった…?

そんなこと言われたら…どうもありえない方向に考えてしまうのだが。


「…まあ、簡単なことだ。これを踏まえて考えてみてくれ。」


少し赤くなった私の顔を見て、満足そうな表情を浮かべ、柳君は去っていく。
待ってとばかしに私も席を立ち上がり、柳君を追いかけた。


「ちょ、ちょっと、柳君」
「そこ、静かにしなさい」


今まで何も言わなかった先生が、声をあげる。私の声が相当大きかったらしい。
じっ睨んでくる先生にすみませんと謝り、今度は静かな声で「柳君」と話しかけた。



「返事は、次の金曜、またここでな」



少し開いた目で見つめられれば、私は頷くことしかできなかった。





金曜、図書室で






091017 新咲(本当に久々に柳書いたような気がする。口調わからないですごめんなさい。ちょっと知り合いがアイデアくれたので書いてみました)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ