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□春が来た
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ひらり、と桜が舞った。
もう季節は春になっていた。

散歩の帰り道。
桜道を歩いてきたせいだろうか、体が糖分を求めてきた。
頭に思い浮かぶのは

「…団子食いてェ」

そうつぶやくとぽんぽんと浮かぶ糖分たち。
あんみつも食いてェしアイスも食いてェー。
と思っていてもここには甘味屋やファミレスなんてない。
しかしもっとないのは金だ。

「昨日パチンコで金使っちまってねェんだよなァ。誰かおごってくんねェかなァ…団子」
「そんなにお団子が食べたいんですか?」
「もちろ…ん」

誰もいなかったはずなのに、いつの間にか隣には少女が立っていた。
驚いて距離をとりその少女を見る。
桜と同じ色の着物を着ていて、手には何かを持っている。
それは俺が求めていたものだった。

「これ、お団子です。よかったらどうぞ」

そう笑顔で差し出された団子。

「…いや、もらう理由ねェし…」

もらいたいのは山々だが、俺にはこの少女からもらう理由はない。
断ると少女は何かを考えるような素振りを見せた。

「…あ、ありますよ。理由」
「あ?なんだ?」

ふふ、と笑ってと少女は俺の頭を指差す。
なんだコイツ。俺の天パに同情したからくれるってか?
天パなめんじゃねーぞコノヤロー。

「怖い顔しないでください。桜ですよ、桜」
「桜?」

頭をかいてみると目の前を桜の花びらが舞い降りてきた。

「ね?」

少女は笑いながら言う。また桜と同じ色をした唇をあげて。

「私、ちょうどこれを持って花見に行こうかと思っていたんです。でも行く手間がなくなりました。」

きっと桜道を通ってきた際に落ちてきた花びらが俺の天パに絡まってしまったのだろう。

ってことは、今まで俺、頭に花びらつけていたわけ?
うわぁ恥ずかしいー…


スッと、突然。
目を細めて少女は俺の頭に手を伸ばした。


「――今年の桜は綺麗ですね」


そしてひとつ、花びらをとると俺に向けて微笑み、そう言ってきたのだ。

「…あ、ああ」

柄にもなく胸が高鳴る。
ドキドキ。鼓動はどんどん早くなっていく。
今の俺の顔は熱いし、目はキョロキョロと動いている。


あ、俺知ってるぞ、こういうの、なんていうか。


あれだ、




が来た





090805 新咲(明らかに季節間違えてやがってるんですが、春に更新するの忘れてたんです。)


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