short2
□grief
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※現代パロ
grief
なぜこんな風になったかわからない。
なぜ彼がこんなことをするのかわからない。
なぜ彼が私を愛しているのかわからない。
何度彼に怒りをぶつけたかわからない。
何度別れを告げたかわからない。
何度死のうと思ったことかわからない。
でも、今日で全部オワリだ。
「…さようなら」
誰もいない部屋にあるテーブルに銀色の鍵を置くと、つるつるの廊下をスリッパで歩きながら玄関へと向かった。
靴を履き替えながら、ふと横にあった写真立てに気づく。
下駄箱の上にあるその写真立てには学生時代に2人で撮った写真が飾られていた。
何も穢れをしらない、きれいなえがおだった。
きらきら輝いている。私もこんなに輝いているころがあったのかと思い出した。
そっとその写真に触れてみる。
私の隣にいるのは、彼だ。
今でも十分だが、このころも羨ましい顔立ちをしていた。
蜂蜜色の髪がまぶしい。よく彼の髪の毛を「きもちい」と触っていたものだ。
そうすると、ちょっと嫌そうな顔をしながらも、彼は大人しく触られていたのだった。
あの時彼の耳が赤くなっていたことは、今でも覚えている。
思い出すと笑えてきて、私は口元を押さえてクスクスと笑い始めた。
「ふ、ふ、ふ、ふはは、あははっ!」
段々と笑いは止まらなくなってきて、目に涙まで溜まってしまうほどだった。
何がこんなに面白いかはわからない。
でもふつふつとこみ上げてくる笑いは中々止まらない。
そこで、私は触れていた写真立てを大きく振り上げ
パリーン
地面に叩き落とした。
ガラスで出来ていた写真立ては綺麗に割れていた。
あちらこちらに散らばったガラスは光を反射しており、きらきらと輝いている。
「は、はは…」
そこでやっと笑いは止まる。
落ちている写真はこちらに笑顔を向けていた。
そんな風に笑わないでよ。
私、あんたの笑顔、好きなんだからさ。
最後にそんな顔向けられると、気持ちが揺らぐじゃない。
でも、でもね。もう我慢できないよ。
だから、さようなら。
「…ごめん」
写真の上に、ぽちゃりと一滴が落ちた。
じわりと写真に滲んでいく。
彼の笑顔が、歪んだ。
――それは突然だった。
『なんで、浮気するの』
今まで、何事もなく、ずっとやってきたのになぜか彼はいきなり浮気をするようになって、私は彼を問い詰めた。
『理由なんてねェ』
私の作った料理を食べる彼は無表情でそう言った。
信じられなかった。
今までの私たちの付き合いはなんだったんだろう。
学生から、ずっと今まで付き合ってきたのに。
私がいけなかったのだろうか。私に飽きたのだろうか。
もう、私を、彼は見捨てるのだろうか。
『私が、いけない?』
泣きながら言うと、彼は違うときっぱり応えた。
『じゃあ、何で』
『いえねェ』
何事もないように、箸を進めていく彼。
私は怒りで狂ってしまいそうだった。
『じゃあ、別れてよ』
浮気したということは、少なくとも私に対しての愛情がなくなったということだ。
そんな人とは付き合いたくない。
だからそう言いだした、のに、
『ふざけんな』
彼の方が怒り狂った。
テーブルをひっくり返され、あるもの全てを投げられ、挙句の果てには殴られ、蹴られ、私は動けないほどにボロボロになっていた。
視界がかすんでよく見えなかったけれど、彼の顔は近くて、よく見えた。
なんで、そんな顔をしているんだ。
『俺は、お前じゃねェと、だめなんでさァ』
それじゃあ、浮気しないでよ。
そう唇を動かすと、その唇に彼は自分の唇を重ねた。
『お前しか、愛してねェよ』
その言葉を信じたのは、いつまでか覚えていない。
けれど、そこから地獄は始まった。
浮気をしても何も言い出せない日々。
別れを切り出すと、暴力を振るわれる日々。
ぜんぶ、我慢していた。
「私も、愛してたよ」
それも、今日まで。
ああ、別れのときがきたね。
090729 新咲(浮気+ヤンデレって萌える。アナざーもかきます)
grief...深い悲しみ。悲嘆。苦悩。嘆き。(Yahoo辞書より)