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□神様の言うとおり 01
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「私、幸村君が好きなんだ」

頬をほんのりと染めながら言う彼女に「そうなんだ」とそっけない返事をした。彼女が彼を好きなのはずっと前から知っていたのだ。彼女は実にわかりやすい人物であって、嘘もつけないほどの正直者だ。

「じゃあ、告白すればいいじゃない」

またもやそっけない言い方だったかもしれない。彼女は少し悩んでから「そうしようかな…」と呟いた。彼女はたぶん、たぶんだけれど、結構前から彼のことが好きなはずだ。私がやっと気づいたときには、彼女の視線の先にはいつも彼がいた。ああ、好きなんだなと素直に思った。彼は有名だった。きっと彼には容姿端麗という言葉が当てはまるだろう。私とはまるで逆のようで、私は彼がほんの少し嫌いであった。しかし、そんな自分勝手な理由で友達の恋の邪魔をするわけにはいかない。

「私、応援するよ」

一応そう言っておく。とたんに、彼女はパアッと顔を輝かせ私の手を握ってきた。私はびっくりする。

「本当!?幸村君狙いの人多いから心強いよ!」

たしかに彼を狙っている女は多い。どれくらいかは知らないが、多いはずだ。だってここの学校の女子の7割くらいはテニス部のとりこ、なんだもの。その7割のうちの大部分は彼かあの紅白組が占めているはずだ。たしかにいくら彼女の容姿が他人よりいいからって、不安になるかもしれないな。

「がんば」笑顔、ではないが苦笑いで言う。彼女はとびっきりの笑顔で「ありがとう!」とお礼を言ってきた。女から見ても可愛くて守りたくなる彼女だったら、いい返事をもらえる可能性も高いはずだ。あまり心配する必要はないかもしれないな。

「で?告白はいつすんのよ」
「う、うーん…話したりしてから、」
「え、話したことないの?」
「うん…」

彼とは2年から同じクラスだ。私も彼女も。それなのに一度も話していないとは、驚いた。そういう私も彼とは話したことはないが。とにかく、告白の前に彼と彼女を友達にする必要がある。彼だって、いきなり話したこともない女に告白されてはいやだろう。

「今告白してもオーケーされる確率は低いから、友達になってから告白したほうがいいよ」

恋愛経験ゼロの私がアドバイスしてみる。少し恥ずかしくなった。

「そうよね。が、がんばってみる!」

意気込む彼女は、こぶしを握り締めて、ファミリーレストランの真ん中で立ち上がった。
私も、白い目で見られた。




081007 新咲


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