short

□Pink
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Pink




私にピンクは似合わない。沖田隊長にそういわれた。
たしかに、私にピンクなんて女の子らしい色、似合わないかもしれない。
沖田隊長に言われて、傷ついたということではなく、妙に納得してしまった。
人を切るお前には、ピンクは似合わねェ。お前には黒が似合うぜィ。
沖田隊長はにやりと笑って、人を切ってきたばかりで鉄のにおいを漂わせていた私にそういったのだ。
ぎゅっと服を握って、見てみた。赤い血がしみていても、まだ黒々しい制服は何にも染まらない黒。
私には黒が似合うのかもしれない。ピンクなんて、似合わない。
笑いながらそれを山崎さんに話した。山崎さんはそんなことはないと言ってくれたけれど、彼だってきっと沖田隊長と同じだ。
街中をかけてゆく少女たち。みな、ピンクや黄色など可愛らしい色の着物に身を包んでいる。
私も、一度はそんな普通の女の子になりたいと思った。でも、今見に包んでいるこの服を手放すことはできない。一生、この服に身を包んで生きていくと誓ったからだ。


「見回り終わりましたー」
寝ている沖田隊長に声をかける。「おう」と一言だけを返してきて、また寝てしまった。
それに何かいうわけでもなく、私は自室へと戻る。
女だからと一人部屋にしてもらった自室は何もない質素な部屋だ。
アイドルのポスターや可愛いぬいぐるみなんて飾っていない。私ぐらいの年頃の女の子なら、もっと可愛らしい部屋なはずだ。
ふっと、そんな自室を見渡して自嘲してしまった。
部屋に入ってぺたりと座る。この後の予定はとくになかった。これから何をしようか迷う。
何か仕事をもらって暇をつぶそうか、それともどこかへ出かけようか。
ひざを抱えて考えているうちに寝てしまいそうだった。しかし、急に開かれた扉に顔を上げる。


「沖田隊長?」
寝ていたはずなのでは?なぜか私から目をそらしてそわそわとしている沖田隊長にそういう。
「え、えーっと…」何かをぶつぶつといっている。こんな変な沖田隊長は始めてみた。
何を言えば、何をすればよいのかわからなくて、私はただただそんな沖田隊長を見つめるだけであった。
沖田隊長も、そわそわしているままで、何をしたいのだかわからない。


何分かして、沖田隊長は覚悟を決めたかのように、「これ、やるよ」今まで後ろで持っていただろうものを差し出してきた。
瞬間に、この質素な部屋にふんわりとしたいい香りと、花びらがひらりと畳のうえに落ちた。
視界に現れたのはピンクの花だった。パチパチと目を瞬かせて、それを呆然と見る。
「な、なんか反応しろィ」
数秒たってから沖田隊長が恥ずかしいように言った。
「あ、あの、これ…なんですか」
「花でさァ」
「そんなことくらいわかります」
ぶっきらぼうに答える沖田隊長をにらむ。
「なんで、花なんか…」
「山崎が…お前にピンクなんて似合わねェって言ったから謝れっていわれたんでィ」
「山崎さんが?」
すこし驚いた。山崎さんは沖田隊長になんと言ったのだろうか。あの沖田隊長がこうやって自ら花まで持って謝りにくるだなんて。
失礼だが、山崎さんに感謝より恐怖を抱いてしまった。
沖田隊長はいきなり私に花を押し付けてきた。「うぷっ」花の香りが強くなった。
仕方なくそれを受け取り、沖田隊長にお礼を言う。
折角あの沖田隊長が買ってきてくれた花だ。それに返す必要もないので受け取っておく。
そして花瓶を買わなくてはいけないな、と思ったとき。


「…ピンクも似合うじゃねェか」


ぼそりと呟かれたその言葉に私の顔もピンクに染まる。
前よりも、ずっとピンクが好きになったときであった。





081031 新咲(とくにハロウィンには関係ないです。山崎にするか沖田にするか迷いました)


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