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□抱き締めて、確かめて、
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部屋に何者かが入ってくるのを感じとった私は、その者がどうでるかを待とうと瞳を閉じたままでいた。すぐ近くまで来たのがわかる。殺気は出ていないので大丈夫だとは思うが―――

「ん…?」

ごろりと寝転ぶような音がし、隣が暖かくなった。思わず素早く瞳をあける。なぜか私の隣で、沖田隊長が寝転んでいた。

「沖田隊長…何してるんですか」
「寝てる」

呆れたような口調できくと、さらりと返される。そんなの見ればわかることだ。

「なんでここで寝てるんですか」

今度は質問を変えてみる。沖田隊長は瞑っていた目をそっと開けた。やはり沖田隊長の赤い瞳は綺麗だ。本人が気に入っているかいないかは知らないが、私は沖田隊長の赤い瞳を気に入っている。その赤い瞳がきょろりとこちらを向いた。

「ゆめ、」

沖田隊長の薄い唇から漏れたその言葉は、なんとも寂しそうで、なぜか胸がキュッと苦しくなった。沖田隊長がこんな声を出すなんて、きっと誰もが夢だとしか思わないだろう。でも、今は―――現実ですよ。そう言うと「わかってまさァ」と先ほどよりもはっきりした声が返ってくる。

「夢を、見たんでさァ」
「…はあ」

ぽつりと話しはじめる。曖昧に返事をしてみた。

「おまえが―――」

沖田隊長の口が動く度、赤い瞳がぐにゃり、と歪んでいくような気がした。




お前がいなくなっちまう夢だったんでさァ。お前が、任務中にヘマしやがって、寝ならがら帰ってきやがったんでィ。真っ赤で、冷たくて、動かなくて…名前で呼んでやってもちっとも起きねェから…俺、怖くなったんでさァ。お前が■んでるって思うと、怖くて怖くて、仕方なくて、涙まで出てこようとして。いつも冷たい視線ばっか向ける瞳がもう見れねェのかとか屁理屈ばっか言う口がもう動かねェのかとか、たまに見せる綺麗な笑顔がもう、一生、見れねェのかって思うと、怖く、なったんでさァ。お前が■ぬなんて、想像もしてなかった。情けねェだろィ?あの真選組一番隊隊長が、お前みたいな地味な女ひとりでこんなにも取り乱しちまうなんて。土方のヤローに知られたら切腹しろなんて言われちまうだろうな。そんな悪夢見ちまって、目が覚めたら、夢か現実かよくわかんなくて、思わずお前の部屋に来ちまったんでィ。■んでねェか確かめようと思って…そしたら間抜けそーな顔して寝やがって…はは…生きててよかったでさァ。お前が■んだら、俺も■ぬつもりだったから。でも、これが現実だってわかっても、怖ェんでさァ。お前がちゃんと生きてるって、存在してるってわかんねェと―――怖ェんでさァ。だから、手でも握らせろィ。お前の、所為なんだからな。




ぎゅっ、と存在を確かめるように強く握られた手は意外にも暖かい。


「でも、隊長」




どうせなら抱き締めて確かめてくださいよ。








100812 新咲
さすが突破文。gdgdである。沖田の話増やし隊です。


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