短文集
言葉の羅列群
-my past roots-
◆姫と従者
「いつか、世界で一番美しい竜を見ることが私の夢なの」
うっとりと空想にふけるような表情で、彼女―色素の薄い、透けるような肌をしたフライゴン―は言う。
「そして、もしもそれが私以外にあり得ないと気付く時が来たら、私は世界を滅ぼすわ」
そんなあまりのも理不尽な神様のごとき横暴が、実際に可能であるから手に負えないのだ…
そうため息をついた彼女もまた、先のフライゴンと瓜二つの容貌をしていた。
わがままなお姫様と、それに仕える苦労性な従者兼影武者。
「姫様、御夕食の準備が整っております。今日はカゴの実をご用意していますよ」
その言葉を耳にして、目を輝かせながら従者の方を振り返る。
二匹の間に一瞬現れたかに見えた鏡は、片方のリズミカルな翼のはばたきによってすぐさま打ち砕かれた。
どうやら少なくとも、お姫様がきのみに夢中になっている間は、世界は流星群の脅威にさらされずに済みそうだ。
2012/07/31(Tue) 17:01
◆心情理解
彼女は静かに涙をこぼす
そっと近寄り、その涙を舐め取る動物が一匹
慰めてくれるの?
いいえ、ただこの水が美味しいだけ
それでもいいわ、今は傍にいてくれるなら
そして彼女は再びはらはらと雫を溢れさせる
動物はせわしなく頬に残る痕を消す
2011/09/17(Sat) 23:55
◆それは造花と言えるのか
そこに赤い花があるのに
人々は青い花を求めた
目の前にあるものも賛美する
それでも存在しないものをねだる
現実となったブルーローズは
野に生きた記憶を羨んでいた
いつか自らの真の価値に
気付いてくれる人を待ち望みながら
cf. にひうるほふ
2011/04/20(Wed) 16:30
◆心内故郷
なんでもない街並みが懐かしくなる
もう一度そこに行ったら満たされるのか?
多分また離れたら渇くだけなんだろうなあ
その土地までの距離は物理的であると同時に
それ以上に心理的に遠い遠い
.
2011/01/31(Mon) 02:13
◆地下道
狭い地下空間 ひとつ違う道を行けば そこは数多の雑踏の中
光が見えても近づきたくなかった
黒い石をくり抜いたオブジェが僕を迎える
そうだね ここにいても何もかわらない
幾何に規定された水が ただ 流れるだけ
2011/01/14(Fri) 15:25
◆pink noize
聞こえた音は幻想だったの?
封印から解かれなお 繋がれたまま
整然たる雑音の中で眠る
周波数から生まれ出でる色
私と同じ色
永遠に繰り返される波の中で
ねびゆく私
君に伝わる全ての要素が
未分化のまま 流れ落ちる
従属すべきは誰?
早く会いたい
.
2010/12/02(Thu) 22:46
◆1分の先
鋼の体を持つというのは嘘ではなく
心もまた同等でなければならない らしい
ただ、どちらかが裏切ったとしても
もう片方も失われるというわけではなく
有り体にいえば少しぐらい連動していたっていいじゃないかと
毒を吐いた
cf.白鋼の塔
2010/10/10(Sun) 22:45
◆世界の周りに音が回って
宇宙空間に音はない 導くものがいないから
音があるのは星にだけ 震えて 伝わって
あの星も その星も 音で満たされている
僕の見ている夜空は きっと 有音部分と無音部分
(カービィ)
2010/03/05(Fri) 16:40
◆妥協を知らない人々
私はただ 平穏に
世界の混沌を
見つめたいだけなのに
周りはそれを 許しはしない
争いは嫌い
どんなことであっても
ゆっくり静かに 時が移ろいゆくのを
眺めていられたなら
(セレビィ)
2010/03/03(Wed) 12:26
◆キラリ
私一人しかいない公園
風が ふきすさぶ
首を傾ければ 時計柱
針が5分ずれている
遠く遠く 緑と灰と青を見ようか
草垣を越えて
私一人しかいない公園
風が パノラマを 通り抜ける
2010/03/01(Mon) 19:25
次の10件→
[TOPへ]
[カスタマイズ]