小説・詩(kirby)
□6.既視 ―Kirby & Gooey―
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既視 ―kirby & Gooey―
この星の主であるはずの大王は、見るからに様子がおかしかった。
虚ろな目…闇に操られた者特有の目をしていた。
「ねぇ、大王!しっかりして!ねぇってば!」
「起きて…!」
カービィとグーイは、黒い雲に覆われてしまった星の危機を救うために共に旅をして、
今まさに諸悪の根源と「なってしまった」デデデ大王と戦っている。
数年前にほとんど同じ状況を経験しているカービィには、
今の自分の行動が逐一過去の自分とかぶり、その奇妙な一致に気味悪さを覚えていた。
と、そのとき ガバリ 、と普通の生物であれば開くはずのない大王の腹が横に裂けた。
中から覗いたのは、黒く渦巻く靄に浮かぶ、目玉。
視線は丸い二つ目を射抜いた。
「………!!!」
失ったはずの記憶がグーイの脳裏に閃く。
「!? グーイ、どうしたの!?」
カービィが目をそらした一瞬の隙に、宙に浮く大王の体が突進してきた。
「カービィ…!」
「! たぁっ…!」
彼は持っていたパラソルを思い切り前方に突き出した。
星の飾りが見事に大王の鳩尾にめり込み、巨体がぐらりと傾く。
大王の体はようやく限界を迎えたらしく、鈍い音を立てて落下し、動かなくなってしまった。
すると、今までこの地を支配していた闇の力が辺り一面から噴き出し、天高く立ち昇り始めた。
黒い雲が重くたちこめていた空は、闇の力が近づくのに呼応するように
さらに濃度を増し、まるで異世界に包まれたようになってしまった。
「カービィ!」「大丈夫か!?」「これは一体…?」
慌ただしく階段を駆け上がって来る足音が聞こえ、今までの旅を助けてくれたカービィの仲間たちが姿を現した。
「みんな…!」
「助太刀しようと思ったんだけどな…ちょっと遅かったか?」
リックが頭をかきながら残念そうにつぶやく。
「あ、あれ見て!」
ピッチが小さな緑色の翼で指した方向を全員が目で追う。
キラキラと輝く何かが、こちらに向かって飛んできているようだった。
「あっちからも来るわ!」
今度はチュチュが反対側の空を示した。
どうやらこの星のほうぼうから、この場所へと集まってきているらしい。
それらは一か所にかたまってどんどん大きくなり、
そしてひときわ強い光を放ったかと思うと、一本の杖の形になった。
カービィがそれを手に取ると、輝きを放ってハート型の結晶がぽろぽろとこぼれ落ちる。
旅の途中で皆を助けるために分け与えてきた愛が、
今度は皆からの力となってカービィの心に流れ込んでくるようだった。
恐怖が支配する雲の中へも飛び込んでゆける勇気を与えてくれる。
いざ、最後の戦いへ赴こうとしたときだった。
「カービィ…」
弱々しい声が彼の動きを留めた。
「グ、グーイ…!その…体は…?」
グーイの体は今までカービィが見たこともないほど黒ずみ、輪郭には橙赤色の鎖が巻きついていた。
過去の虹の島々での戦いがフラッシュバックする。
冷たく研ぎ澄まされた剣…禍々しく黒い光線…体力を奪い尽くす邪悪な衝撃波…。
見紛うことはない、その姿はまるで……
「少し…ダメージを…受けすぎたみたい…。グーイはもう…動けない……頑張って…カービィ……!」
そうだ。
今更グーイを疑って何になるというのだ。
共に闘い、共に分かち合い、色んなことを乗り越えてきた。
その時間が消えてなくなることなど決してあり得ないんだから。
カービィの瞳は決意を固めたように揺るぎのないものになった。
「うん!絶対あいつを倒して来るからね!待っててね、グーイ!」
そう言って、新たな武器となった杖と共に星の戦士は宙へと舞い上がっていった。
「がんばれよー!」「応援してるからー!」「絶対無事に戻って来いよー!」
城の屋上から仲間たちがその雄姿を見送る。
「……あれ?グーイは?」
その姿を隠すため、ふらりと落下し、
霞む地上へ吸い込まれていったグーイに気付いたものは誰もいなかった。
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