小説・詩(pokemon)

□無機への愛
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無機への愛


夕陽の一かけらが水平線の彼方に消えると、今まで光にざわめいていた海面は急激に静まり、ただ黒々としたうねりを運ぶのみとなった。
同時に海岸沿いの町並みも徐々に暗闇に飲み込まれていく。

それに対抗するように、海沿いを走る一本道の電柱に、チカチカと蛍光灯が点いていった。
特に誰も関心を抱くことのないそれらの中に、不規則な点滅を繰り返す、一本の切れかけた蛍光灯があった。

彼は本気で その何の変哲もない切れかけた蛍光灯を 心配していた。





(ああ また 叫んでいる)

ヒトデマンが最初にその蛍光灯を見かけたのは、3日前のことだった。

三日月の浮かぶ夜の海で、波間を漂うように移動していると、たまたま光の明滅をキャッチした。
水しぶきをあげて海面から半身を出し、それほど高くはない岸壁をふと見上げると、
その海沿いの道路に並んだ蛍光灯のうちのひとつが、咳きこむように点いたり消えたりを繰り返していた。

(何か言っている…?)

光の明滅は、ヒトデマン同士の会話に用いられるものとよく似ていたのだ。

「タ…スケ…テ…クル…シ…イ…!」

ヒトデマンの心に衝撃が走った。
なんと、それは我々の言葉で自らに語りかけているではないか。
彼は赤いコアを点滅させて、必死に言葉を送り返した。

「ドウシタンダ? ワタシニ デキルコトハ ナイカ?」

しかし、蛍光灯はその問いに答えることはなく、何度こちらから語りかけても、ただ苦しい苦しいと繰り返すばかりだった。





空が白み始め、朝日が船の帆を照らす時間になると、蛍光灯たちは役目を終えて一斉に消えた。

ヒトデマンは夜の間中ずっとその明滅を見つめていた。
急に全ての灯りが消えた時には少々驚いたが、ひとまず安心して朝日が差し込み帯を作る海中に戻っていった。



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