僕らの世界
□僕らの世界-8-
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(オズワルド)
「………」
ナルガムを出て数時間。俺は今、カイン伯父さんの家の前に来ていた。伯父さんの家は、山奥にあるとは思えない大きさだ。屋敷に近い。ヴァイスの家よりも断然大きい。
……それにしても、なんで伯父さんが俺を…。
俺は玄関の取っ手を掴み、思い切り引いた。ゆっくりと音を立てて開く…。
「…伯父さん! オズワルドだ!」
誰もいない広間に響く俺の声。……留守なのか?
「伯父さ―――」
「まだまだ修行が足りないな」
突然俺の後ろから聞こえてくる声。俺は慌てて後ろを振り向くと、真っ黒な毛色の狼獣人、昔と変わらないカイン伯父さんが立っていた。
「…伯父さん……」
「…オズワルド。よく無事だったな…」
伯父さんはそう言って、俺を抱きしめた。……伯父さんと別れたのは8歳の頃、そしてその三年後に俺は……。
「……お前が“ローグ”に連れていかれたと聞いた時は、驚いたぞ」
「……ローグ?」
俺は聞き慣れない言葉に、伯父さんに聞き返した。伯父さんは俺を解放し、不思議そうな顔をする。
「知らなかったのか? お前を連れていった狐獣人の名だ」
…俺を連れ去った狐獣人。あのハンターズのボス。ローグという名前だったのか…。
「……? 伯父さん、なんでそんな事まで…」
「お前が連れ去られたとアスカテの者から聞いた後、役立たずな双子の豹獣人に調べさせたんだ」
「……ぁ…」
……役立たずな双子の豹獣人…。アダジオとレントはどうなったのだろうか…。
「まぁ、取り合えず上がれ。……色々と話すことがある」
いつになく真剣な表情でそういう伯父さん。……伯父さんがこんなにも真剣な表情をするの、初めて見た…。
俺は屋敷の中へと入っていく伯父さんの後ろからついていく。…それにしても、本当に広―――
「…………」
歩いてる途中、チラッと視界に入った光景。とある部屋の開け放たれたドアの向こうに、一糸纏わぬ状態で鎖に張り付けられた豹獣人が二人ほど見えた。どうやら意識は無いようで、目を閉じている。あまりの衝撃的な光景に、俺は立ち止まってまじまじと見てしまっていた。……あのハンターズで時折嗅いだことのある不思議な匂いが立ち込め、二人の足元には見たことも無い道具が転がっている。……これは、いったい…。
「ん? オズワルド、興味あるか? もっとじっくりと見てやれ。その方が向こうも嬉しがるぞ」
俺が立ち止まっていた事に気がついた伯父さんは、俺に向かってそう言った。……嬉しがるのか?
「……ん―――!! み、見るなあぁぁ!!!!」
目が覚めた片方の豹獣人………アダジオが、俺を見るなり顔を真っ赤にして身をよじった。が、両手足と首を壁に繋がれた状態では、本来隠さなくてはいけない場所も隠れない。……だんだん、見てるこっちが恥ずかしくなってきた。
「……? オズワルド、見ないのか?」
「……遠慮しておく…」
顔を逸らし、廊下を歩こうとした俺の肩を掴みそう言う伯父さん。……なんだかよく分からない気持ちになった俺は、早くこの場から離れたくなった。
「……ふむ。オズワルドは知らないのか」
「……何を…?」
顎に手を当ててそう言う伯父さんに目をやり、尋ねる。……視界の隅に、部屋の中が…。
「…まぁ、後でしっかりと教えるとしよう。さぁ、こっちだ」
そう言って再び歩き出した伯父さん。……あれが、カイン伯父さん流の“お仕置き”なのか…。ローグとは別の意味で恐ろしい…。