僕らの世界
□僕らの世界-7-
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(オズワルド)
「……雪、少ないね…」
一歩足を踏み入れたラルドがそんなことを言い出した。……確かに、ここにも当たり前に積もるはずの雪が外と比べて少なかった。
「…外はあんなに―――!? えっ!!?」
突然、ミックが驚きの声をあげる。俺達はミックの視線を辿ってみる。
「……森…?」
視線の先にナルガムは無かった。広がっていたのは周りと同じ森の景色だけ…。
「…これが生きて帰って来れない理由か……」
『お気に召したかな?』
隊長の呟きの後、いきなり声が聞こえてきた。……この声、ラルドがシュゴールに捕まった時の…。
俺達の前に、この前と同じような黒い闇が広がった。中からは麻のローブを着た虎獣人、隊長とネロの親友ルーツさんが出てきた。
「―――!! テメェ…!」
「会ってそうそう敵意剥き出しとは感心しないな」
ネロが槍を構えながら睨み付けた。俺達も戦闘体制に入った。……隊長以外は。
「……ルーラァ…。この世界を支配しようとしている悪魔、か…」
……? 悪魔? 世界を支配する…?
「…ほぅ、我の事を知っているか。ネスティラルディアにでも聞いたか?」
…ネスティラルディア。魔導師ギルドのギルドマスター、クリスの父親だ。……でも、なんで隊長にだけ教えたんだ? 俺達の目的を知っているのならみんなに教えてくれたって良いような気がする。
「……お前の計画は阻止してやる。ルーツも返してもらうぞ」
隊長は目の前の悪魔、ルーラァを睨みながら言った。しかし、ルーラァは突然含み笑いをした。
「クックック…! 我の計画を阻止する? 不可能だな。お前達は我の計画の糧となって死んでいくのだ」
「……ふざけんじゃね―――」
「ネロ!!」
今にも飛び掛かりそうな勢いのネロを、隊長が声で制した。
「…ネロ、落ち着け……」
「落ち着け? 落ち着いてられるかよ!! ルーツがこの変な野郎に操られてんだぞ!! なんでお前は落ち着いて―――」
「いいから、落ち着け……!!」
ネロはそこで言葉を切る。……気付いたんだ。隊長も今、必死に落ち着こうとしているのを。
「流石だな、ドルク。…我はこの森の何処かにいる。お前には我の所まで辿り着ける事を祈っておこうか。悪魔の祈りが届くか分からないがな」
そう言って再び黒い闇作り出して、その中へと入っていった。……沈黙が流れる。
「………先を急ごう…」
隊長はそう言うと何事も無かったように歩き出した。……だが、俺達はどうも納得出来ない。ルーラァというあの悪魔について何も知らないんだから。
「…えっ、ちょっと待てよ! …俺、何が何だか分からないんだけど…」
「僕も! 隊長、教えてよ!!」
ミックとラルドが先を行こうとする隊長にそう言った。
「……すまん…これだけは誰にも教えられない…」
隊長は振り返り、申し訳なさそうにそう言った。……何か事情があるんだろう。ただ、その事情というのが“俺達を危険な目に遭わせないようにするため”と思えてならない。
「…安心しろ、俺が何とかする。もしもの場合は……クリス、お前が何とか出来るはずだ」
「えっ、僕が……?」
そう言うと再び歩き出した隊長。……結局は隊長だけで何とかしようとしているのか…。俺達にも出来ることは無いのか…?
「……おい、ドルク待て―――」
―――ガサッ!!!
ネロが隊長を呼び止めようと動いた瞬間、草影が不意に音を立てて揺れた。俺達は音のした方に視線を向ける。
「グルルルル……!!」
そこには、体長が2メートルを越しているであろう黒と茶の縞模様をした魔物がいた。本物の虎のような体に赤黒い角が二本頭に付いている。尻尾は長く、三本生えていた。
「ああくそっ! 邪魔だ!!」
ネロは持っていた槍を魔物に振るった。…ネロの攻撃は普通の魔物じゃ避けれないような速さだったが、そいつは軽々しく跳び上がりネロの後ろに着地した。
「なっ―――!!」
「ネロッ!!!」
大きな魔物の腕がネロに迫った。ネロは咄嗟に槍を盾にしたが衝撃は強く、吹き飛ばされて近くの木に背中を打ち付けた。隊長が倒れそうになったネロに駆け寄る。
「ぐっ…!!」
…俺はミックが魔法を唱える準備を始めたのを見て魔物へと駆け出した。…とりあえずは目を狙う。
「……っ!?」
俺が目を狙ってクローを振るうと、この魔物は後ろに跳んで避けると思っていた。……だが、俺の予想に反して俺の腕が振り下ろされる前にこいつは俺の懐に飛び込んできた。俺は無防備な体に勢いよく体当たりされて、数メートル飛ばされる。
「ごほっ! がはっ!」
俺は強い衝撃によって、一瞬呼吸が上手く出来なかった。
なんとか呼吸を調え、立ち上がった時には目の前には魔物の太い腕が迫っていた。