僕らの世界
□僕らの世界-5-
1ページ/22ページ
(クリス)
「……ん…」
目が覚めると、魔導師ギルドの白い天井が目に入った。昨日、ラルドのお兄さんにギルド内を案内した後は、ラルドが目を覚ますまで待っていた。ラルドが目を覚ました後、またみんなで宿屋に戻ろうとした時に……魔導師ギルドのギルドマスターがいちいち呼び止めて、僕達の為と言って部屋を用意したのだった。なんでも、シュゴールがした事のお詫びだそうだ。
「………って、まだみんな寝てるんだね」
周りを見ると、どうやら起きたのは僕だけみたいだ。僕は結構前から早起きに慣れてしまっている為か、どうしても早く起きてしまう。
とりあえず僕は顔を洗って、誰も起こさないように部屋を出た。
朝方のギルド内はとても静かだった。僕の歩く足音だけが廊下に響いている。今の時刻は5時前、起きてる人なんてそうそういない時間だ。
「………?」
…どこからか話し声が聞こえてきた。辺りを探ってみると、すぐ近くの部屋から聞こえてくるのが分かった。……その部屋は、ギルドマスターの部屋だった。
僕は会話の内容が気になって、扉に耳を近づけた。
「……ギルドマスター、宜しいのですか?」
「……? 何の事ですか?」
「……此処に来たあのハンターズの狐獣人の子、クリス君は―――」
「いいんですよ。………全て、私が悪いんですから…」
「………そうだ。全部、お父さんがいけないんだ……!!」
僕はこれ以上聞きたくなくて、急いでその場を離れた。……8年前、お母さんが家を出ていったのも、僕が一人取り残されて一年間辛い思いをしたのも、全部お父さんがいけないんだ!
「………うぅ…」
考えると、自然と涙が出てきてしまう。僕は誰もいない廊下に座り込み、一人で泣いた。
「―――クリス君?」
突然声を掛けられた。僕はゆっくり顔を上げると、そこにはラルドのお兄さんの顔があった。
「……あっ…」
「何かあったのか?」
心配そうに僕の顔を見るラルドのお兄さん。……やっぱり兄弟だなぁ。どことなくラルドに似てる。
「…いえ、大丈夫です……」
僕はそう言いながら、涙を拭いて立ち上がった。
「……お兄さんはどうしてこんな所に?」
「……俺はどうしても早く起きてしまうんだ。それに、ここが魔導師ギルド内だと思うと眠れなくてな」
苦笑しながらお兄さんはそう言った。早く起きてしまうのは僕と同じみたい。
「…お兄さんは、なんで魔導師ギルドに?」
僕はお兄さんに聞いた。魔導師ギルドは魔法書を販売したり、新たな魔法の開発を進めている。やっぱり魔法に興味があって…?
「……精霊の力の事を、ラルドの事をもっと理解したかった…」
「あっ……」
……そうだ。ラルドは精霊の力を授かったとされているんだ。勿論それは、小さい頃からあったはず。周りとは違う自分の弟の事が気になるのは当然だ。
「…ごめんなさい。僕、何も考えずに……」
「別に気にすることじゃない。ラルドも村のみんなも、そんなに気にしてなかったからな」
お兄さんは、昔を思い出すように明後日の方向を向いて呟いていた。
「……っと、結構話し込んだな」
「…ですね」
僕らは小さく笑いあうと、お兄さんは行くところがあるらしく、廊下を歩いていった。……僕もそろそろみんなの所に戻ろうっと。
僕はさっき来た道を戻って、ヴァイスのみんなが寝ている部屋に戻ってきた。
「…………」
「…あ、隊長起きてたんですね」
部屋に入ると、隊長が自分のベッドに座っていた。……隊長が早く起きるって珍しいな。
「なんだぁ? その“早く起きるなんて珍しい”とでも言いたげな目は」
隊長は目を細めて僕を見ながらそう言った。……僕の心を読んだんじゃないかってくらいに当たっていた。
「……隊長、読心術でも?」
「ばぁか、んなもん無くても大体予想はつく。……っていうか本気でそう思ってたのかよ!」
隊長のいつもの鋭いツッコミ……あれ? 最近見なかったような気がする。
「…お前、今までどこに行ってたんだ?」
「早く起きちゃったんで、ギルド内を散歩してたんです」
僕は正直にそう答えると、隊長はほぅ〜、とそれだけ言っただけだった。
「……ん、そうだ。俺は今からこいつら全員起こすから、クリスはギルドマスターに今回の依頼内容を詳しく聞いてきてくれねぇか?」
「―――えっ!?」
突然隊長に言われたことに、僕はビクッと反応した。……お父さんの所に…。
「クリスは何度もギルドに来たことあるんだろ? 俺はまだ道がわかんなくてなぁ。………嫌か?」
「…えっ、あ……ぅ…」
正直に言うと嫌だ。あの人と極力喋りたくない。だけど隊長からの頼み、断りたくない……。
「……わかった。それじゃあ案内してくれ」
「……ごめんなさい…」
「気にすんな。…ほら、行くぞ?」
隊長はそう言うと、僕の手を取って歩き出した。僕は罪悪感を感じながらも、隊長に感謝した。