僕らの世界

□僕らの世界-5-
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(クリス)





「……ん…」

目が覚めると、魔導師ギルドの白い天井が目に入った。昨日、ラルドのお兄さんにギルド内を案内した後は、ラルドが目を覚ますまで待っていた。ラルドが目を覚ました後、またみんなで宿屋に戻ろうとした時に……魔導師ギルドのギルドマスターがいちいち呼び止めて、僕達の為と言って部屋を用意したのだった。なんでも、シュゴールがした事のお詫びだそうだ。

「………って、まだみんな寝てるんだね」

周りを見ると、どうやら起きたのは僕だけみたいだ。僕は結構前から早起きに慣れてしまっている為か、どうしても早く起きてしまう。
とりあえず僕は顔を洗って、誰も起こさないように部屋を出た。
朝方のギルド内はとても静かだった。僕の歩く足音だけが廊下に響いている。今の時刻は5時前、起きてる人なんてそうそういない時間だ。

「………?」

…どこからか話し声が聞こえてきた。辺りを探ってみると、すぐ近くの部屋から聞こえてくるのが分かった。……その部屋は、ギルドマスターの部屋だった。
僕は会話の内容が気になって、扉に耳を近づけた。





「……ギルドマスター、宜しいのですか?」
「……? 何の事ですか?」
「……此処に来たあのハンターズの狐獣人の子、クリス君は―――」
「いいんですよ。………全て、私が悪いんですから…」





「………そうだ。全部、お父さんがいけないんだ……!!」

僕はこれ以上聞きたくなくて、急いでその場を離れた。……8年前、お母さんが家を出ていったのも、僕が一人取り残されて一年間辛い思いをしたのも、全部お父さんがいけないんだ!

「………うぅ…」

考えると、自然と涙が出てきてしまう。僕は誰もいない廊下に座り込み、一人で泣いた。

「―――クリス君?」

突然声を掛けられた。僕はゆっくり顔を上げると、そこにはラルドのお兄さんの顔があった。

「……あっ…」
「何かあったのか?」

心配そうに僕の顔を見るラルドのお兄さん。……やっぱり兄弟だなぁ。どことなくラルドに似てる。

「…いえ、大丈夫です……」

僕はそう言いながら、涙を拭いて立ち上がった。

「……お兄さんはどうしてこんな所に?」
「……俺はどうしても早く起きてしまうんだ。それに、ここが魔導師ギルド内だと思うと眠れなくてな」

苦笑しながらお兄さんはそう言った。早く起きてしまうのは僕と同じみたい。

「…お兄さんは、なんで魔導師ギルドに?」

僕はお兄さんに聞いた。魔導師ギルドは魔法書を販売したり、新たな魔法の開発を進めている。やっぱり魔法に興味があって…?

「……精霊の力の事を、ラルドの事をもっと理解したかった…」
「あっ……」

……そうだ。ラルドは精霊の力を授かったとされているんだ。勿論それは、小さい頃からあったはず。周りとは違う自分の弟の事が気になるのは当然だ。

「…ごめんなさい。僕、何も考えずに……」
「別に気にすることじゃない。ラルドも村のみんなも、そんなに気にしてなかったからな」

お兄さんは、昔を思い出すように明後日の方向を向いて呟いていた。

「……っと、結構話し込んだな」
「…ですね」

僕らは小さく笑いあうと、お兄さんは行くところがあるらしく、廊下を歩いていった。……僕もそろそろみんなの所に戻ろうっと。
僕はさっき来た道を戻って、ヴァイスのみんなが寝ている部屋に戻ってきた。

「…………」
「…あ、隊長起きてたんですね」

部屋に入ると、隊長が自分のベッドに座っていた。……隊長が早く起きるって珍しいな。

「なんだぁ? その“早く起きるなんて珍しい”とでも言いたげな目は」

隊長は目を細めて僕を見ながらそう言った。……僕の心を読んだんじゃないかってくらいに当たっていた。

「……隊長、読心術でも?」
「ばぁか、んなもん無くても大体予想はつく。……っていうか本気でそう思ってたのかよ!」

隊長のいつもの鋭いツッコミ……あれ? 最近見なかったような気がする。

「…お前、今までどこに行ってたんだ?」
「早く起きちゃったんで、ギルド内を散歩してたんです」

僕は正直にそう答えると、隊長はほぅ〜、とそれだけ言っただけだった。

「……ん、そうだ。俺は今からこいつら全員起こすから、クリスはギルドマスターに今回の依頼内容を詳しく聞いてきてくれねぇか?」
「―――えっ!?」

突然隊長に言われたことに、僕はビクッと反応した。……お父さんの所に…。

「クリスは何度もギルドに来たことあるんだろ? 俺はまだ道がわかんなくてなぁ。………嫌か?」
「…えっ、あ……ぅ…」

正直に言うと嫌だ。あの人と極力喋りたくない。だけど隊長からの頼み、断りたくない……。

「……わかった。それじゃあ案内してくれ」
「……ごめんなさい…」
「気にすんな。…ほら、行くぞ?」

隊長はそう言うと、僕の手を取って歩き出した。僕は罪悪感を感じながらも、隊長に感謝した。
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