僕らの世界

□僕らの世界-3-
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(ネロ)




「………西」

俺達は目的の西にあった森に着いた。その間俺は一人で歩きながら考えていた。西といえば、ゼクリアがある。……城塞都市ゼクリア。通称[終わりの場所]と呼ばれている。ガレールとは正反対の呼び名を持つゼクリアは、噂では荒くれ者が集まった国らしいが、他国とは一切干渉しない国のためよく分かっていない。勿論大陸は離れているので大丈夫だろうが、あまり西の方には行かないのでよくわからない。この森がどんなものか分からない。

「……どうした?」

俺の後ろを歩いていたドルクが、俺に話しかけてきた。

「なぁ、どうしてその女の子は誘拐されたんだ?」
「……質問したのは俺なんだがな。その賊は誰かをおびき出すためにミリーちゃんを誘拐したらしい」
「…誰かをおびき出す?」

……一体誰を? その女の子に関係する誰かではあるはずだが。しかし、そのミリーって女の子の事を何も知らないので考えても仕方ない。

「…まぁ、“自分で居場所伝えていった”んだ。こっちにしてみれば探す手間が省けていいぜ」
「………自分で居場所を伝えていった?」
「…ああ。誘拐した虎獣人が『西の森であいつを待つ』と言ったらしい」

……何かがおかしい。何故わざわざ自分の居場所を明かした? そんなことをすればギルドに依頼した親は、その事を必ず請け負ったハンターズか冒険者に話すはず。そうなれば…………そうなれば、すぐにそこに向かう。まさに今の俺達だ。だとしたら……

「……嫌な予感がする。気を緩めるな」
「……あぁ、わかった」

まだ確信は持てないが、おそらく間違ってはいない。確信を持てないのは、それが非常に効率の悪いやり方だからだ。……自分で自分の居場所を伝えた理由。それは、おびき出す“誰か”をすぐに来させるため。そしてその“誰か”はギルドの仕事をしている人。わざわざその女の子を誘拐したのは、その“誰か”が女の子と少なからず関わった人だから、少しでもその人が依頼を請け負う確率を上げるため。そんなの、女の子がどれだけいろんな人と知り合いになっているか分からないので、効率は悪い。……そこで俺が考えるのは、“ヴァイスに、女の子と関わった人物がいないか”だ。初めは誰もいないと思っていたが

「…………」

前でミックと横に並んで、黙ってミックの話を聞いているオズワルド。オズワルドはその女の子を昨日家まで送った。たったそれだけだが、実際に今俺達はその女の子を助けるためにその森に向かった。……おびき出されているのがオズワルドじゃない確率は決して0じゃない。もしオズワルドだとしたら、俺達が守ってやらなければどうなるか分からない。……オズワルドをおびき出すような連中は、おそらく“裏ギルド”関連。

「―――止まって!」

突然ラルドと一緒に歩いていたクリスが大きな声で言った。俺達はピタッとその場に止まる。

「……待ち伏せしても無駄だよ。僕の血識で見えてるから」

そう言うと、奥の木々から何人か出てきた。数えてみると計7人。……そのうちの一人に、オズワルドが反応したのが分かった。

「…ほぅ、便利な血識だな。そういう奴ももっと欲しいな」
「……お前……!!」

何なのか分からないが、オズワルドが激しい怒りを、そう言った虎獣人に向けているのが分かった。

「……あの時はしっかり殺せなかったが、今度は殺してやるよ。……お前の周りの奴らもな」
「お前達がオズワルドを……!」

ラルドは言った虎獣人を強く睨んだ。これで確信は得た。おびき出されていたのはオズワルド。そして賊はオズワルドをあの拾った場所で殺そうとした奴ら。

「…おい貴様、女の子はどうした」

ドルクが一歩前に出てその虎獣人に聞いた。

「……“ボス”が来てるから無駄に殺せねぇ。この奥の小屋に閉じ込めてる。…まぁそこまで行かせねぇがな?」
「―――!!」

虎獣人の言った“ボス”の言葉に、オズワルドは異常なまでに反応し、震えているのが分かった。

「クックッ…。体は正直だな」

突然、木の上から何かが降りて来た。それはサングラスをかけた白い狐獣人だった。その狐獣人はサングラスを外し俺達に向かって微笑みかけた。……オズワルドにも。

「やぁ、“有能な殺人兵器”よ。元気だったか?」
「……やめろ…」

明らかにオズワルドの様子がおかしい。その狐獣人を見ただけで硬直し、声も震えていた。俺は危険だと思い、その狐獣人とオズワルドの間に立とうとする。……が。

「……!? 体が動かねぇ……!!」

何故か体が動かなかった。指すらも何かに押さえ付けられてるようで動かない。他のみんなも同じようでその男の顔を見ている所で止まっていた。

「私の血識だ。私の目を見た者の四肢の動きを抑制する能力だ」

そう言いながらも少しずつ近づいてくる。
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