虚ろなる世界で…
□虚ろなる世界で…[壱]
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『………うせ……しゅよ……』
……声が……聞こえる……。
『…お……めは、世界……元……』
…うまく……聞き取れないな…
『……な…ずや、やく……を…し……そして……』
〜虚ろなる世界で…〜
「…………」
淡い光が映る。俺の瞳に。
その次に、肌寒さを感じた。
「………?」
目に映る景色、体の脱力感と重力から、俺はどうやら、ある場所に寝ているようだ。
俺は腕を動かし、上半身を起こしてみた。そして自分の体を見て、ふと気付く。……俺は、服を着ていない。
「…………」
俺は周りを見回してみた。……散らかったガラクタ、積み上げられたゴミ、冷たいコンクリート、崩れた建物、暗い空に赤い月。
「……ここは…どこだ……?」
俺の目覚めてからの第一声は、そんな台詞だった。
―――なぁ、もう帰ろうぜ?
―――あと1個!! あと1個良さそうなの見付けたら帰るからさ!!
ゴミの山から、ガサガサと音を立てながら誰かが近づいてくる。どうやら、探し物をしているようだ。
―――俺もう帰るぞ?
「あぁもう、ちょっと待って―――」
声が綺麗に耳に入るようになった。声の主がゴミ山の上から顔を出したからだ。声の主は茶色の毛色をした犬獣人で、耳はピンと立たずに、頭の横に垂れている。大きな青い瞳が、俺を見ていた。
―――どうしたぁ、ルー? 良いもん見付けたんならさっさと帰るぞ?
もう一人の声はこの犬獣人から少し離れた場所にいるのか、若干ゴミ山を通して声が曇って聞こえてくる。犬獣人は変わらず俺を見たままだ。
「………ねぇ、レン兄…。ちょっと来て……」
―――あぁ? 俺にまでゴミ漁りしろってか? 汚れるのはゴメンだぜ。
犬獣人は俺から目を離さないまま、連れのもう一人に話し掛ける。連れはというと、犬獣人の言葉を無関心に受け止め、軽く流そうとする。
「……僕の目がおかしいのかな? 見たことない狼獣人が僕の視界に入ってるもんだから、レン兄に確かめてもらいたくて」
―――何だとっ!?
犬獣人の言葉の後、連れの驚く声とと共に大きな音を立てて近づいてくる足音。犬獣人の頭の隣に現れたのは、同じ茶色の毛色をした熊獣人だった。
「…ど、どう? レン兄にも見える?」
「………に、人形かなんじゃねぇのか? は、全裸の人形!」
ハハハと俺から視線を外す事なく笑う熊獣人。それに釣られて笑う犬獣人。……俺の事を言っているのか?
「……なぁお前達、俺のこ―――」
「人形じゃねぇ!! 捕まえるぞ!!!」
「アイアイサー!!!」
突然俺に対する態度が変わった二人。ゴミ山から転がり落ちるようにして、猛スピードで俺に近付き、俺の体をガッシリ掴んだ。
「体温もある!! 脈もある!!」
「…コイツ、生きてるぞ!!!」
俺の体を掴んだ二人は、確かめるように俺の体を触りはじめる。……イマイチ話が読めないな。
「お前、今までどこにいたんだ? どこ地区だった?」
「名前は? 他に誰かいない? 何で服着てないの?」
「……そんないっぺんに言われても困る」
二人は俺に次々と質問を投げ掛けてくる。俺は至る所を触られてむずむずするのに堪えながらも二人に言った。
「まず教えてほしい。俺は誰なんだ?」
「「…………は?」」
…二人は触るのを止めてくれた。