虚ろなる世界で…
□虚ろなる世界で…[1]
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「……ここは…」
意識が戻って1番最初に目に入ったのは、暗い空に赤い月。周りには散らかったガラクタに崩れた建物。
「……やっぱり、一緒だ…」
俺の格好は何も着ていない素っ裸。当然だ。ずっと培養液の中で眠っていたんだから。辺りを探ると、すぐ近くに“アルフ”と彫られた金属板が落ちてあった。……うん、何もかも覚えてる。覚えてる上で、過去に戻ってきた……?
―――なぁ、もう帰ろうぜ?
―――あと1個!! あと1個良さそうなの見付けたら帰るからさ!!
ガラクタの山の向こうから、レンとルーの声が聞こえてくる。……2人は覚えてる? 一緒に過ごした日々を。……俺が消え、消えた俺を取り戻す為にクロードが死んだ、あの記憶を…。
―――俺もう帰るぞ?
「あぁもう、ちょっと待って―――」
ガラクタ山からひょっこり顔を出したルー。俺を見てあの時と同じように固まっている。
―――どうしたぁ、ルー? 良いもん見付けたんならさっさと帰るぞ?
レンにそう言われても、ルーは俺を視界から外そうとしないで、俺達は見つめ合ったまま。…この反応、変わってない。だとしたら……
「……ねぇ、レン兄…。ちょっと来て……」
―――あぁ? 俺にまでゴミ漁りしろってか? 汚れるのはゴメンだぜ。
「…僕の目がおかしいのかな? 見たことない狼獣人が僕の視界に入ってるもんだから、レン兄に確かめてもらいたくて」
―――何だとっ!?
間違いない。2人は記憶が戻ってない。……あの頃の楽しかった思い出は、2人にはない…。
「…ど、どう? レン兄にも見える?」
「……に、人形かなんかじゃねぇのか? は、裸の人形!」
…だとしたら、俺が2人の事を知っていたら2人とも疑問に思うだろう。全て話しても信じてもらえる内容じゃないし、ここは……知らないフリをした方がいいかな…
「とりあえず着るものが―――」
「人形じゃねぇ!! 捕まえるぞ!!!」
「アイアイサー!!!」
2人はガラクタの山から転げるように降りて、俺に走り寄って身体を触りはじめた。
「体温もある!! 脈もある!!」
「…コイツ、生きてるぞ!!!」
今なら分かる。この時2人がどれだけ嬉しかったか。長い月日を掛けてようやく集まったのは4人だけ。
「お前、今までどこにいたんだ? どこ地区だった?」
「名前は? 他に誰かいない? 何で服着てないの?」
ここはどうしたら良いだろう…。本当の事を言っても信じてはもらえないし、とりあえず今は記憶が無いことにしておいた方がいいかもしれない。
「…名前はアルフ。それ以外のことは覚えてないんだ…ゴメン」
「……記憶喪失、か…わりぃ…」
「…何も、覚えてないの?」
「うーん、どうだろうなぁ。物の名前とかそういうのは覚えてるんだけど、どこで育ったとか今何歳だとか、そういうのが分からないんだ。…悲しくなんてないから、気にしないで」
俺はそう言って、笑ってなんとかごまかした。教えてくれたのは目の前の2人なのに、その2人にこうやって説明してることに、変な感じがした。
「…まぁ、ここで長話するのも危険だ。とりあえずアフターエイジに帰るか」
「そうだね。アル兄、立て……あ、ごめんね、初対面なのにいきなり馴れ馴れしかった、かな…」
「……ううん、気にしないでそう呼んでよ。俺もルーって呼ぶからさ」
ルーはまるでずっと一緒に過ごしてきたかのように、俺の事をアル兄と呼んでくれた。…やっぱりどこかで、一緒に過ごしてきた日々を覚えてるのかもしれない。
「……俺達、名乗ってないぞ…どうしてルーって分かったんだ?」
「え、あ! いや、その…さっきそう呼ぶ声がしてたから!!」
「ああ、それもそうか」
「とにかく早く戻ろうよ! ハンスさんとナユ兄にも知らせてあげなきゃ!」
ルーはそう言って俺とレンを急かした。こうしていると今までと何ら変わりないような気もするけど、確かに今は過去に戻ってる。……こんなこと相談できるのは、クロードしかいない。早く見付けなきゃ。