虚ろなる世界で…
□虚ろなる世界で…[陸]
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「えぇ!? 実験施設にみんなで行く!?」
朝食。みんなで食べてる所にその説明をすると、ナユタが驚きの声をあげる。……というか、ナユタしか驚かなかった。ルーは分かるけどハンスとレンは…?
「なんだ、また行くのか?」
「リハビリには持ってこいじゃの」
特に驚く様子もなくそう話す2人。また行くってことは、最近行ったのか?
「またってどういうこと? レン兄」
「あ? 言ってなかったか? クロードの薬? を取りに行ったの、そこだったんだよ」
「ワシらはあまり奥には入らなかったがのう」
ナユタとルーと俺、3人でセックスした日、ハンスとレンは薬を打ちに行くクロードに付き添っていた。その時に行ったのがこれから行く実験施設らしい。
「…でも、どうして行くの…? しかもみんなで…」
「………ここでは説明しづらい」
「とにかく、みんなに来てほしいんだ。俺からも頼むよ」
「う、うん……」
ナユタは少し不安そうな表情のまま頷く。確かに大人数で、“アレ”がたくさんいる場所に行くのは不安だ。俺だってそこは不安に感じる。…でも
「………安心しろ。俺が守る」
「……お、おいアルフ。コイツ本当にクロードか…?」
少し思い詰めた表情でみんなを守るというクロード。今までのクロードとは似ても似つかない対応に、困惑するのも当然かもしれない。……それだけ、“箱庭”というのが限界で、クロード自身も限界ということなんだろう…
「………食事が終わればすぐに行く」
クロードはそう言うと刀を持って立ち上がり、玄関の方に歩いていった。俺達も朝食を食べ終わって玄関に集合する。…これが最後の食卓になりませんように。
「………俺から離れるなよ」
全員揃ったのを確認すると、クロードはそう言って出発した。外には至る所に“アレ”がうごめいている。
「“アレ”って何なんだろうね」
「…おいクロード、お前知ってんじゃねえのか?」
ルーが“アレ”を見ながらいつも思っていたであろう疑問を口にする。……“アレ”は敵意を持って俺達に襲い掛かってくる。時々大人しいやつもいるけれど……一体何なんだろう。
「………あれは死んだ者達の魂のようなものだ」
「えっ………」
クロードの返答に俺達は足を止めてしまった。クロードも足を止め振り返り、言葉を続ける。
「科学者の実験で死んでしまった獣人達の魂が、目に見える形でその場に留まり、生あるものに襲い掛かる。………ただの亡者だ」
「……ウソ…じゃろ…?」
「それじゃあもしかしたら…俺達の知ってる誰かって可能性も……」
ナユタは“アレ”を見回しながら体を震えさせた。……“アレ”が、死んでしまった人の魂…? なんだか悲しい気分になってくる……
「………レン」
「な、なんだよ…いきなり」
「………児童館で“アレ”に襲われた時、館長を感じただろう」
「なっ………!!」
クロードの言葉にレンが明らかに動揺している。あの児童館、たくさんの小さな“アレ”と、大きな“アレ”がいた。もしかして全て、あの児童館にいた子供や大人だった……?
「…そうなの? レン」
「……確かに気を失った時、あの館長が夢に出てきた……。だけどなんでお前が…っ!?」
「………俺も知っている。あの児童館には世話になったからな」
「……お前が……あそこに…」
「………入った時期は違うだろうが、館長は昔からずっとあの人だ」
そう言ってクロードは再び歩きだす。俺達も離れないようにクロードの後ろについていった。……だとしたら、どうしてあの時俺に噛み付いた“アレ”は、クロードの刀で斬られた時みたいに消えたんだろう……。