短編集

□過去 『ドルク・マグワー』
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(ドルク)





「…………」

俺は船から降りて、一度周りを見渡してみる。……やはり違うな。

「…本当に、よろしいんですか?」

“向こう”から乗せてもらった船の船長が、俺にそう言う。

「ああ、構わない。俺が決めた事だ」

俺が船長にそう言うと、そうですか…、と言って船の中へと戻っていった。……そう、俺が決めたこと…。

「………」

ゆっくりと動き出した船を見送る事なく、俺はその場を離れた。……これからは、俺も自由に動くことが出来る。さて、何をするか…。

「…ここから1番近い都市はガレールか」

俺は手持ちの袋から地図を取り出して見た。ここから東に進めばガレールに着く。所々の村や町を経由していけば、1週間ほどで着くだろう。

「……行くか」

俺は地図を袋の中に戻し、歩きだした。…まずは、ここから最寄りの村、ニルスに向かう。













「…それにしても、自然豊かな大陸だな」

歩き始めて数キロ。俺は周りの景色を見てそう思った。今歩いている道は比較的安全な街道。目に見えて分かるほどに、植物があちこちで育っている。…勿論、獣人以外の生き物も多いのだろうな。

「……っ!」

近くの草の茂みから音が聞こえた。俺は愛用の大剣を構えて戦闘体制に入る。

「ギュ〜〜…」
「…ワイルドラッドか」

出てきたのは、魔物の中でも弱いとされている種族の魔物だった。俺は剣を担ぎ直して、再び歩きだす。

「ギュギュ……」
「…なんだ? 俺に何か用か」

こちらが攻撃しなければ何もしてくることはないワイルドラッド。俺は無視してニルスに向かおうとしたが、後ろからワイルドラッドがついて来ていた。

「ギュ〜………」

俺が振り返りコイツを見ると、ワイルドラッドは自分が現れた草の茂み、正確にはその向こう側を見た。

「……ついて来い、と?」
「ウギュ!」

俺がそう言うと、元気よく鳴いた後走りだした。俺は仕方なくワイルドラッドについていく事にした。…まぁ、急ぎの用も無い。面倒だが構わないか。









「―――!?」

草から飛び出たワイルドラッドの耳を追い掛けながら行き着いた先には、ワイルドラッドの群れと、倒れた虎獣人がいた。…頭からの出血が酷いな。

「おい、大丈夫か!!」
「…うっ、……あんた、誰…?」

虎獣人は呻きながら薄く目を開けてそう言った。

「……何があった」

俺は虎獣人の質問に答えることが出来ず、問い掛けは無視した。虎獣人は質問に答えなかった事はあまり気にしていないみたいだ。

「……ここを通り掛かったら、こいつらが魔物に、襲われてて、なんとか追っ払ったんだが、頭に傷を……」
「大体は分かった。…見捨てるわけにもいかない。近くの村まで連れていってやる」

俺はそう言って虎獣人の肩を担いだ。

「待て…っ!!」

虎獣人が頭の痛みに呻きながらも、俺に待ったを掛ける。

「…なんだ」
「あいつが、戻ってくるかも、しれねぇ。そしたら、こいつらが…」
「馬鹿かお前は! …こいつらはワイルドラッド、魔物だ。放っておけ」

俺はそう言って虎獣人の肩を担いで歩きだした。……が、突然虎獣人が俺から離れた。

「…俺だけ、でも…」
「…魔物に情けをかけて何になる。お前には関係ない事だろう」

頭からの出血が収まらない状態の虎獣人を睨みながら俺はそう言った。虎獣人も俺を睨んでいる。

「…あいつらだって、生き物だ…! 倒すのは、襲い掛かる魔物だけで、いいんだ…!」
「………」

俺は虎獣人の真っすぐな目に、何も言えなかった。……その時

「ギュ〜〜!!」
「「―――っ!!」」

ワイルドラッドの鳴き声が聞こえた。ワイルドラッドのいる場所を見ると、中型の魔物、サイクロプスがいた。種類にもよるが、あれはおそらくBランクのサイクロプスだ。

「…俺、が…」
「………」

近くの木に手を付きながら歩く虎獣人。……正直、何故そこまでしてやれるか分からない。分からないが…

「俺がやる。そこで待っていろ」

何故か俺は、剣を構えて走り出していた。
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