虚ろなる世界で…
□虚ろなる世界で…[壱]
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「………暇だ」
あれから数週間。俺もこの生活に慣れていた。料理も食材の関係で色々と限られてくるが、ナユタはそれらを上手く調理してくれるから、全く困らない。家事も殆どがレンとナユタがしてしまうし、ルーはしょっちゅう外にガラクタ探しに行くし、そんな状況だから、ハンスと二人きりになるのは少し不安だし…。
結局、一人で何もすることがない。
「……ちょっと出かけて来ようかな」
俺はベッドから起き上がって、自分の部屋から出た。
部屋から出てまず最初に見たのは、椅子に座って何かをしているハンスだった。…背中を向けてるから、何してるのか分からないな…
「ハンス。何してるんだ?」
「―――ッ!? ア、アルフ!? ワ、ワシはその……み、見るでない馬鹿者!!」
俺が後ろから声をかけると、ハンスはビクッと体をびくつかせ、俺にそう言い放って自分の部屋へと戻っていった。……馬鹿者って…。ちょっと声かけただけじゃないか…。
「―――どうした、アルフ?」
「…あ、レン」
今のハンスの声を聞いてか、部屋からレンが出てきた。…レンに言っておこうか。
「俺、暇だから外に行ってくるよ」
「あぁ、それは良いけどよ……。ハンスに何かしたのか…?」
「後ろから声をかけただけだ」
レンがハンスの部屋を見ながら言うので、俺はすぐにそう返した。……俺は何も悪いことしてないはずだ。
「何か隠れて何かしてたみたいだけど…」
「隠れてするなら普通、自分の部屋でするだろ。……怪しいな」
レンはニヤニヤと笑みを浮かべてそう言う。……普通ならともかくハンスだ。怪しいというよりも、不安になる。いつ部屋に侵入されて何されるか……。ハンスもふざけてやってるんだろうけど、行き過ぎないか心配だ。
「俺が調べとこうか?」
「いや、別にいいよ。ハンスも知られたくないだろうからさ」
「……お前が良いんなら俺はいいが…」
俺の返答に、レンは少し不満げにそう言う。……折角隠しているのに、それを知られたんじゃハンスが可哀相だ。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
「おう! ついでにルーのやつも見つけたら一緒に頼む!」
「あぁ、分かった」
俺は暇潰しの為に外に出ることを思い出し、レンに軽く手を振ってアフターエイジを出た。……ルーはガラクタ集めをしてるが、他のみんなはどんな風にして暇を潰してるんだ?
「…………」
俺がアフターエイジを出て最初に向かったのは、俺が初めて目を覚ました場所だった。俺が寝ていた場所がポツンと空いて、その周りには壊れた機械やら何やらが散乱している。
「……俺は、何者なんだ…?」
俺は小さな機械の破片を拾い眺める。……なぜ世界がこんな事になっているかは聞いた。科学者の実験が大半の生命を奪い、利用者の失った物は朽ちはじめた。今アフターエイジに揃ってるみんなも、何年間もかけて集まったって言ってた。これ以上生き残りがいることも、あまり望めない。
……俺の家族、友達、住んでいた場所。…俺の、名前…。それを知る術は、もう無い。
「……ハァ…」
俺は手に持った機械の破片を捨て、頭をうなだれ大きくため息をついた。
―――ウゥゥゥゥゥゥ……
「………?」
低く唸るような音が聞こえ、俺は顔を上げた。顔を上げた俺の視線の先には、青白く光るモヤモヤとした何かが浮いていた。…中央には赤い点が二つ…。
―――ウゥゥゥゥゥゥ……
「……どうしたんだ…?」
俺にはその光が、弱々しく揺れているように見えた。俺はその光にゆっくりと近づいて、手を伸ばす。
―――アァァァァ!!!
「―――ッ!? うぁっ!!」
突然その光は重苦しい雄叫びをあげ、俺の右腕にくっついた。…なんだ、これ……! 痛い…ッ!!
「…ぁ…ッ! ぅああ…!!」
左手で引きはがそうとするが、すり抜けてしまう。それに、引きはがせないどころか、光はだんだん広がっていき、痛む場所も同じように広がっていく。もう既に右腕は光に包まれてしまった。
「うぁぁ…! ぐ、ぁ…!!」
俺は立っていられず、膝をついてしまった。…まるで、獣に噛まれてるみたいだ……ッ! どうしたら………