虚ろなる世界で…
□虚ろなる世界で…[壱]
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「ようやっと、目の覚めたようじゃの」
翌朝、開いた目の前にはハンスの顔があった。どうやら俺は、無事朝を迎えることが出来たらしい。
「……おはよう、ハンス」
「うむ、おはようじゃ」
俺は起き上がり、両手をグッと高く伸びをした。…やっぱり寒いな…。
「ほれ、ぬしの服じゃ」
「……俺の…?」
ハンスに手渡されたのは、確かに衣類一式だった。大きさもなるべく合わせたものになっている。
「もしかして、俺が寝ている間に取って来てくれたのか!?」
「本当はワシ一人で取りに行くつもりじゃったが、皆同じ考えでのぉ。礼を言うのなら他の者にも言ってやってくれんか?」
「あぁ、勿論! ありがとうハンス!!」
俺はハンスに礼を言って、早速服を着てみた。……上着も下着も、驚くほどピッタリだ。
「フム…。なかなか似合っておるのう」
ハンスは腕を組んでまじまじと俺を見る。……うん。みんなが選んでくれた服が似合っていて良かった。
「…しかし、ワシと寝る際には、全て脱いでもらうぞ?」
「いや、もうハンスと寝ることは無いと思う」
……また裸でハンスと寝でもしたら、他のみんなが黙っていないだろう。
ドンッ、ドンッ!!
―――おいコラ、ハンス!! 早く開けろ!!
―――アルフさんに変なことしてないよね!?
―――アル兄を解放しろー!!
「ぬぅ…。ワシはまだ何もしておらぬと言うに…」
ハンスが日頃どんなことをしているのか、今後目を光らせる必要がありそうだ。
「部屋は2つ空いてるから、好きな方を使うと良いよ」
あの後、朝食だと居間らしき部屋に連れてこられた。ナユタが朝の料理を作りながらそう言う。
「何か足りない家具とかあったら僕に言ってね! 一緒に探してあげるから!!」
「あぁ。ありがとな、ルー。頼りにするよ」
俺の向かい側の椅子に座ったルーが、楽しそうにそう言った。
「家事やらなんやらは俺とナユタでやるから、お前は記憶を戻すことに専念しろ?」
「俺のことは別にいいよ、レン。俺にも何か手伝えることがあったら言ってくれよな」
俺の右隣に座っているレンが頬杖をつきながら俺にそう言う。
「寂しくなったりしたら、ワシの所に来るんじゃぞ? ワシがぬしを慰めてやるからの!!」
「…そんな時が来ないことを祈ってるよ、ハンス」
豪快に笑って言うハンスに、俺は苦笑いしながらそう返した。
「朝ごはん、出来たよ。……アルフさんの口に合うかどうか…分からないけど……う〜ん……」
「見た目も匂いも美味しそうだから、心配しなくても大丈夫さ、ナユタ」
料理を運んできたナユタは、モジモジしながら言っている。俺はそんなナユタに笑ってそう言葉を返す。
「そんじゃあ、新たな家族も増えた祝いの朝飯だ! 今日も力強く生きていこうぜ!!」
「そうじゃな! アルフが加わって、今までよりも楽しい人生が送れそうじゃ!!」
「今日はアル兄歓迎日だね! 後で一緒にガラクタ探しに行こーっと!!」
「アフターエイジの部屋とかの説明もした方が良い……よね? 一緒に部屋を回ってくれる…?」
……自分が何者なのか分からない。勿論、知りたいと思っている。…でも、今この時は、みんなとの時間を大切にしたいと、そう願うばかりだ。
「それでは皆よ!! アルフの歓迎を祝い、合掌!!!」
『いただきます!!!』
「……アルフ、か……」