虚ろなる世界で…

□虚ろなる世界で…[壱]
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「……それじゃあ、お前は記憶喪失になってるんだな?」

触るのを止めた二人に、俺が目覚めてから今までの話を、十数秒で終わらせた。

「……まさに何もかも失っ―――」
「ルー!!」

ルーと呼ばれた犬獣人が、首に提げたハーモニカを握って俯いた。……ハーモニカ…。どうやら、物の名前とかは覚えてるみたいだな。

「…悪いな。コイツが変な事言って…」
「いや、気にしてない。記憶がなければ、辛いものも無いからな」

レン兄と呼ばれていた熊獣人が俺に頭を下げる。……別に何かを失ったような気はしないんだが、それも記憶喪失だからだろうか…。

「……レン兄。とりあえずアフターエイジに帰ろうよ」
「…そうだな。“アレ”が出てくるかもしれない」
「……アフターエイジ…? “アレ”……?」

俺は二人の会話に首を傾げる。…アフターエイジは覚えてないな。アレというのも何を指しているのか分からない。

「帰りながら説明してやるよ。立てるか?」
「あぁ…」

キョロキョロと周りを見ながら歩く二人に、俺はついていく事になった。

「…………?」

俺は視界の隅に何かが映ったような気がして、横を向いた。……が、そこには瓦礫やゴミしか無い。…確かに今、黒い何かが……

「…どうしたの?」
「…あ、いや、何でもない」

ルーに手を引っ張られ、顔をまた前に戻す。……気のせいだな。
















「ここがアフターエイジだ」

俺が連れて来られたのはドーム型の大きな建物だった。

「ナユ兄、ハンスさん! 帰ったよ〜!!」

円形の広間でルーがそう叫ぶ。すると、一つのドアが開かれて、中から黄色の鱗を持った竜人が出てきた。

「遅かったな、お前ら道にでも―――ッ!!」

腰に布を巻き付けただけの竜人は、俺を見た瞬間両目を見開いた。……うーん、視線が下に下りてるような気がするが、気のせいか?

「……あ、やべぇ。コイツ全裸だったなぁ」
「……喰われる?」
「…なぁ、何の話をしてるんだ?」

竜人が俺達に近づいてくるのを見て、二人はよく分からない話をする。……俺が全裸だと、喰われる? すっ、と頭にある結果が過ぎったが、そんなことは無いよな? あれは初対面の人同士がやるものではない。

「―――遅かったね二人とも止めさせてぇぇ!!」

また別のドアから猫獣人が現れたが、俺達を見るとすぐさま部屋に何かを取りに戻り、その何かを持ってこっちに猛スピードで走ってきた。

「ナイス、ナユタ!!」

何かを受け取ったレンは、俺の腰に何かを巻いた。……どうやら持ってきたのはタオルのようだ。
腰にタオルが巻かれると、竜人の歩みが止まった。

「……ハッ!! いかんいかん…。なかなかの大きさに、ワシのモノが出てきてしまったわ…」

我に帰った竜人はいろいろと落ち着かせていた。…そう、いろいろと……

「……ところでレンさん。彼はもしかして…」

ナユタと呼ばれた、タオルを持ってきた猫獣人は、俺を見てレンに聞いた。……そういえば、ここに来る途中言ってたな。生きてる奴はほんの数人しかいないって…。

「あぁ、そうだ。……コイツのこと話していいか、ハンス?」
「うむ。ワシのモノもどうにか落ち着いてきた。話してもよいぞ、レン」

レンが竜人の股間を見ながら言った言葉に、ハンスと呼ばれた竜人はさも当たり前のようにそう言った。……竜人のはたしか、通常は外に出てないんだったな。布が何かに押し上げられてるのは気のせいだろう。
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