僕らの世界

□僕らの世界-7-
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「アースウォール!」
「ダークアロー!」

ラルドとミックが同時に魔法を唱えた。ラルドの唱えたアースウォールは、俺の足元から現れて俺を数メートル高く持ち上げる。魔物の腕は岩の壁を削るだけになった。そして間髪入れずにミックの魔法が魔物の肩や脚を貫いた。

「グガァァァ!!」

魔物は自分の体に傷を負わした相手、ミックを睨み付けると大きく吠えた。……ミックが危ない!!

「グォォォォ!!!」
「ミック!!」

俺は壁から飛び降りてミックに駆け寄った。……間に合えっ!!!

「―――!! オズワルドッ!!」
「……くっ!!」

俺は勢いよく飛び込んでミックを守るように抱きしめた。…少し背中を掠ったが心配するほどでもないだろう。
そのまま転がるようにして魔物から離れた。

「だ、大丈夫!? オズワルド!!」
「…あぁ、大丈夫だ」

俺は立ち上がりミックにそう言った。俺は振り返りミックを襲った魔物を睨んだ。………? この魔物、どこかで見たことが……?

「グルルル………!!」
「オズワルド、大丈夫か!?」

魔物と俺達の間に隊長が大剣を構えて入ってきた。

「―――!? ゥグルルル……」
「……どうしたんだ?」

この魔物は隊長を見た瞬間、様子がおかしくなった。……何なんだ…。

「……ウ、グゥ…、ド、ルク、マグ、ワ、ァ……!!」
「―――!? 喋るのか!?」

……確かにこの魔物は今喋った。“ドルク・マグワー”と。どちらかといえば、喋った事よりも隊長の名前を知っている事の方が驚く事じゃないか?

「グアァァァァァ!!!」
「うおっ!?」

油断していた所に、魔物が隊長に飛び掛かった。倒れて両手足を押さえ付けられた隊長は身動きが取れなくなっている。

「隊長―――」
「待てっ!! 来るな!!!」

俺は隊長を助けようと駆けると、隊長が手足を押さえ付けられた状態でそう叫んだ。

「……泣いてるのか…?」

隊長は優しく自分の上にのしかかっている魔物にそう言った。……よく見れば、魔物の目が潤んでいるように見える。

「……ウ、グォゥゥゥ……」

魔物は低く唸ると、突然死んだかのように隊長の上に倒れ込んだ。……一体、何が…。

「………!!?」

倒れてすぐに、魔物の体から湯気が大量に出てきた。それと同時に魔物の体が変化していく。尻尾は一本を残して消えていき、二本の角は小さく縮んでいき完全に無くなった。体のサイズも一般の虎獣人そのものの大きさになった。……隊長の上に倒れ込んで魔物と思われていたのは……













「………カンタル…」

……隊長の上に倒れていたのは、俺を騙して誘拐し、勝手にヴァイスとライバル意識を持っていたリッターのリーダー、カンタルだった。

「……どういうことだ?」

少し辛そうにしながらも近づいてきたネロがそう言った。

「……わからん。とりあえずコイツを休ませよう」

そう言いながら慎重に体を起こす隊長。カンタルを抱き抱えてその場に寝かせた。

「…ミック、頼めるか?」
「…あ、ああ……」

言われてミックはラスターを呼び出してカンタルに近寄り、胸に手を当てて目を閉じた。

「……彼の者に休息を、心と身体に癒しを与えたまえ。ケアラ」

詠唱が終わるとカンタルの体が白い光に包まれた。……暫くすると包んでいた光が消えていく。

「………ん…」

光が消えてすぐに、カンタルは静かに目を覚ました。……体を起き上がらせて辺りを見回すカンタル。

「……大丈夫か?」

隊長がカンタルにそう言った。カンタルが隊長の顔を見ると、いきなりカンタルの目から大量の涙が流れ出した。

「…うぅ、俺は…俺は……!! あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「カンタル、落ち着け!! 何があった!?」

頭を抱えて泣き出すカンタルの両肩に手を乗せてなんとか落ち着かせようとしている隊長。……俺を誘拐した時はこんな奴じゃなかったはずだ。

「……俺を、守るために……あいつらが…俺の、子分達が……!!!」
「―――!! まさか……!!」

……今のカンタルの発言で、何があったのかが全て分かった。
ハーヴィさんが言っていた“ガレール付近で魔物に襲われた者達”。それがリッターだったんだ。ハーヴィさんは一人を残して後の者は皆魔物に、と言っていた。リッター全員でカンタルを守って魔物に殺されてしまったんだ。

「……あいつら、弱いくせに、『アニキは俺達が守る』って……!! 俺がいくら、逃げろって言っても、あいつら笑って『大丈夫ッス』って……。俺…あいつら守ってやれなかったよぉ………!!!」
「………」

隊長は無言でカンタルを抱きしめていた。……隊長も、カンタルと同じように泣いていた。

「…辛かったな……! 大切な奴らを守れないのは、辛いよな……!!」
「…うぅ、俺…俺……!!」

カンタルはずっと泣いた。隊長も共感して泣いていた。俺達は二人を静かに見守っていた。
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