シアワセになれる物語

□ぼくのなまえ、きみのなまえ
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 ここにはだーれもいないのです。
 本当にだーれもいないのです。
 私?私は「名もなきウサギ」。この「シアワセの森」に住んでいる「名もなきウサギ」。
 どうして名前がないのかって?それは私のそばには誰もいないから。
 だから誰も、本当に誰も…私に名前を付けてくれる人はいないのです。
 だから私は「名もなきウサギ」。

 ぼくの名前は「有坂 幸(ありさか こう)」。今日はお母さんの誕生日。だから花束をプレゼントするんだ。
 だからこの「シアワセの森」でたくさんの花を摘んで、お母さんを喜ばせてやるんだ。
 てくてくてくてく。
 どんどんどんどん歩いてく。
 てくてくてくてく… ぴた。
 おや?
 茂みの中に誰かいるようだ。
「誰かいるの?」
 そっと茂みをかきわけてぼくは見つけた。
 ―――ウサギだ。
 真っ白なウサギがなにか手にもっている。
「あなたの名前は…なんですか?」
 ウサギは突然、ぼくにきいてきた。
「ぼく?ぼくは『幸』。『有坂幸』っていうの。」
 ウサギは手に四つ葉のクローバーをもっていた。
「きみの名前は?」
 ウサギは答えなかった。
 なんだろう?ぼく、なにかわるいこときいた?
 名前をたずねただけなのに。
「私はこの四つ葉のクローバーとおなじです。名前なんてないのです」
「そんなコトはないだろう?きみにだって名前ぐらいあるはずだ」
 しかしウサギは首をふる。
「いいえ。私は『名もなきウサギ』」
 なにを言ってるんだろう。
 名前のない奴なんかいないだろう。
「名前…言いたくないのかい?」
「ちがいます。私には本当に名前がないのです」
 仕方がないな。ぼくが名前をつけてやろう。だって名前がないと不便だろう?えーと…
 ん?
 このウサギが手にしているのは四つ葉のクローバーだよな。
 …そうだ!
「決めた!きみのなまえは『四つ葉』だよ」
「四つ葉…」
「そう!きみはその四つ葉のクローバーとおなじなんだろう?だからきみの名前は四つ葉だ!」
「………」
「四つ葉のクローバーの花言葉は「幸福」。四つ葉のクローバーはね、幸運をもたらしてくれるんだよ」
「幸…福…」
「この『シアワセの森』に住むきみにぴったりの名前だろう?わかったかい?今日からきみは『四つ葉』だよ」
 すると、みるみるウサギの…四つ葉の顔が明るくなる。
 そう。
 今日からこの子は『名もなきウサギ』なんかじゃない。
 きみは『四つ葉』だよ、四つ葉。

 …でも…
 どうして四つ葉は、四つ葉のクローバーなんかもっていたのだろう?
 ぼくは帰り道、ぼんやりと考えた。
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