幸福物語
□幸福な物語
1ページ/1ページ
「ねぇ」
呼びかけてみる。
大きな背中に。
「ねぇってば」
返事はない。
「ねぇ…」
黒い椅子にぐったりと腰をかけた貴方。
何故返事がないのだろうか。
昨日はちゃんと起きていたのに。
「今日私ね、お歌を歌ってたのよ。気がついてた?」
ベットから大きめの声で話しかけてみる。
それでもやっぱり貴方は動かない。
「ずっと前に、歌って見せた歌なんだけど…覚えてた?」
その歌を初めて歌ったとき、フレーズがわからなくなっちゃって必死にごまかしていた私を見てあなたは笑っていたよね。
そして私と一緒に歌ってくれた。
楽しい事を思い出して、私は笑う。
「ちゃんと歌詞も覚えたんだよ。すごいでしょ?」
貴方は動かない。
「えへへ…」
貴方は、動かない。
「……」