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□立場逆転(3DV)
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身体の異変に気付いたのは、ほんの些細なことだった。



【立場逆転】



いつものように、双子の弟が仕事で家を空けている静かな間に、愛刀の手入れをしようと閻魔刀を握ったときだった。
「…?」
長年使い込んだ、手に馴染んでいるはずのそれに、違和感を覚えた。
なぜか、刀が重く感じたのだ。
「…俺も腕が鈍ったか」
苦笑して閻魔刀を鞘に戻した。
…まさか、自分に大変な異変か起こっているとは気付きもせずに。



「ばぁじるーぅっ!!」

日が沈んだ頃、薄汚れた格好をしたダンテが帰宅と共に自分にスキンシップを求めて来た。
「汚い姿を晒すな。さっさと着替えて来い」
すんなりと弟を避けて、バージルは吐き捨てるように言った。
「…相変わらず冷てぇなぁ……あれ?バージルさ…」
自室へ消えようとしたダンテが、ふと兄を省みた。
「何だ?」
「……わざと?悪魔の妖気っつぅの?感じないんだけど」
「…なっ!?」

いつ自分から妖気が消えた?
さっきの閻魔刀といい…

「そんな馬鹿なっ!」
自分の考えを掻き消すように片手を振り上げれば、本来現れるであろう青白い刃たちも一つたりとも出現しない。

………


「…お兄ちゃん…ジョークにしちゃ上手く出来過ぎてンだけど…」
恐る恐るバージルの顔色を伺うダンテは、どうやら同じ症状にはなっていないようだ。

なぜこんな急に…?
なぜ俺だけ!?

「…あのさ、バージル。こういうときはやっぱ、アレしか方法はないと思うんだけど」
神妙な顔をして自分の肩を叩くダンテを横目で睨む。
「…何だ、アテにはしないが聞いてやる」
「やっぱり愛の力ってことでセッ…」
「聞いた俺が馬鹿だった」

サクッ

キッチンにあった包丁を幻影刀代わりに投げると、見事にダンテの頭にヒットし、そのまま彼はひっくり返った。



なぜこうなった?
何か理由があるはずだ…

バージルは自室に戻ると考えを巡らせた。
何か特別なことがあったかといえば見当たる節はない。
「しかしなぜあいつは変わらないんだ…?」
双子なのに、自分だけというのが腑に落ちない。「…このまま、なんてことはないだろう」
疲れているだけだ。
明日になれば戻っているはずだ……


***


ところが、バージルの力は一日どころか、三日過ぎても戻る様子はなかった。
「ンなカリカリすんなよ」
「せずにいられるかっ」平和に過ごしているはず(?)のダンテも、兄の不機嫌によるとばっちりを受けるのが苦痛だった。
別に魔力のない彼に殴られようが刺されようが、痛くも痒くもない。

…問題は。

「知ってるか?バージル。もう1週間だぜ?」
「…?何がだ」
急に読んでいた雑誌を閉じたかと思えば、珍しく真剣な顔をして向かい側に座る自分の顔を覗き込んできたダンテに、バージルはやや身を引きながら訪ねた。

滅多にシリアスにならない彼が、真剣な面持ちでいる。
そのことに、僅かだがバージルは期待を抱いた。
…そして、彼から出た一言が。

「オレら、一週間もヤッてねぇンだぜ!?」

「………はぁ?」
バージルは椅子から落ちるかと思うくらい拍子抜けした。
「はぁ?じゃねぇよ!オレらまだティーンエイジャーだぜ!?もっと深く愛し合いたいとか思わないのかよ!」
がしっと両肩を掴んで熱く語るダンテに、バージルはもはや呆れを通り越してしまった。
「…貴様は年中発情期なんだな」
「そりゃバージルがいりゃ冬だろうが夏だろうが年中無休だぜっ!」
「……仕事をしろ、仕事を」
何だか虚しくなってきた。
なぜ、こんな馬鹿な弟に限って同じ症状が出ないのだろうか…

バージルが頭を抱えて悩んでいると。
「…案外簡単に戻るかもしれねぇぜ?お兄ちゃんの魔力」
「何…?」
ダンテは自信に満ち溢れた顔をして言い放った。
そしてぱちんっ、と指を鳴らして、
「おいネヴァン!久々に出番だぜっ」
そう呼ぶと、並べられた魔具の中でもとびきり目立つギターが、大量の蝙蝠になって宙を舞ったかと思えば、ダンテの隣に集まって来て妖艶な女性の姿へと変わった。
「珍しいわね、貴方が呼んでくれるなんて」
形の綺麗な唇をダンテの頬に寄せ、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「…あぁ、このテの仕事はお前が適任だと思ってな」
仕事?と首を傾げ、バージルの方を振り向くと、ああ、と察したかのように頷いた。
「お兄様の魔力が戻らない…ってことね」
「…どうしたら戻るのか知っているのか」
「簡単よ。あぁでも、お兄様の性格を考えると難しいかしら?」
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