追憶の彼方の記憶〜remembrance〜
□三章:非現実の幕開け、そして争いの幕開け
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三章:非現実の幕開け、そして争いの幕開け
「ふぅ〜、やっぱりお風呂は落ち着くのです。」
白く輝く身体を湯に浸からせ、フラットは存分にくつろいでいた。
「しかもトーヤさんのお風呂にはにゅうよくざいというとても良い香りのするものが置いてあるのですね。大満足なのですよ。」
フンフンと鼻歌が自然に口からこぼれでてきた。よっぽど入浴剤のゆずの香りが気に入ったのだろう。
「これは何としてでもトーヤさんの部屋に移住しなければなりませんね。」
フラットは確かな決意を胸に秘めたのだった。
と、突然不穏な気配を感じた。
「これは………♯!?」
ザバッと勢いよく浴槽からあがると、ろくに身体を拭きもせずに瞳夜が居るであろうリビングへ駆け出した。
「あれっ?フラットさん、どうし………うわっっ!!」
フラットはちゃんとタオルで前を隠してあるのだが(瞳夜の為のささやかな心遣いだ)純情な瞳夜君はそれにもたえられなかったようである。
「フラットさん!ちゃんと服、服を着て下さいっ!!」
フラットはというとタオルを今度は体にしっかり巻き付け、
「そんなことはどうでもいいのです。早くここから逃げるのですの。」
と切迫詰まったフラットの様子に身構えた瞳夜だったが、部屋から出ていかなくてはいけないことに首をかしげた。
「なんでここからでなきゃいけないんだ?フラットさんタオルだけだし……………」
「タオルのことはいいのです。早くするですのよ!!………あとトーヤさん、私は呼び捨てでいいですから。」
自分で急げと言っておきながら余分な話をするフラットだった。
微妙なところで抜けている人である。
「そういうお前はなんで俺のこと"さん"付けなんだよ。」
「それは私の性格というか癖なのですよ。………と・に・か・く、早く!!♯……シャープが来ますの!!!」
フラットは転げるようにして瞳夜を部屋から出すと瞳夜の手を握り、勢いよく階段をかけおり始めた。
「わわっ!フラットさ………フラット、落ち着いて。」
フラットに手を引かれることに少しドキドキしながらも、足は止めずにおりていく。
「これが落ち着いていられますか!!シャープにあっては絶対駄目なのですよ!」
「そのシャープって奴は何者なんだ!?」
「…………今は危険な人としか言えません。私にとって危険なんです。」
「ならフラットだけで逃げればいいじゃんか。」
それは最もな意見である。
だがフラットは首を横に振る。
「駄目ですの。私と一緒にいたから、いずれトーヤさんのところにも………………」
いきなりフラットは走るのを止めてしまった。そして目の先にいる人を見て軽く舌打ちをする。
「遅かったのですの。」
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