カカシ×ナルト.2
□赤いJUICE.2
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怖くない、怖くないと心の中で自分に言い聞かせる。見渡せば、所々に蔦が侵食しており、より一層不気味さに拍車を掛けているのだ。
忙しなくキョロキョロと視線をさ迷わせる少年。全身から怖くて堪らないという気持ちが溢れ出ている。愛玩動物とは、こういう物の事をいうのだろうか。とても愛くるしい。これまではペットを飼おうにも、動物に近付くと露骨に威嚇されてしまうので断念してきた。コウモリは逃げないし威嚇もしないが、如何せん可愛い気がない。比べて、この少年は丁度良い感じだ。
「な、なぁ明かり点けないってば?」
声に震えが混じっている、恐怖からだろう。窓から入る月明かりだけでは不十分なのだろうか。
「見えない?」
「見えるけど」
なら、問題は無いだろうと歩を進めていく。
この吸血鬼には、思いやりという気持ちが無いのか。怖いのである。いくら手を握って貰っている状況でも、雰囲気や壁に掛けられている絵、大きな鎧に不気味な石像、悪趣味過ぎるとは思わなかったのだろうか。吸血鬼は総じて、こういった物が好きなのかもしれない。あー、優しい夫婦に会いたい。暖かい雰囲気の家で安心して眠りたい。そう言えば、吸血鬼も眠る事はあるのだろうか。
「あ!なぁなぁ、吸血鬼も眠るの?」
危機感が足りてないというか、頭に花が咲き乱れているらしい。それに先程まで怯えていたと思うのだが慣れたのか、順応性が非常に高いらしい。
「眠るよ」
睡眠は取るのか。ならば、人と同じ様に野菜や肉等は食べるのだろうか。
「血がご飯?」
「そうだよ」
食べるというより飲んでいるのだが、まぁ細かい事は置いておこう。何故、突然に興味が湧いたのか甚だ疑問ではあるが敵対心を向けられていると思っていた事も手伝い心は弾んだ。
「血だけ?」
無邪気その物の様にも感じられる表情だ。純粋な疑問だけを投げ掛けている事が分かる。
「そう、生きている物からね」
そう言うと少しだけ目を伏せた様に見えた。
「ほら、ナルト。此処が部屋だよ」
大きな扉の前で止まる。部屋か、牢屋に入れられるのだと思っていたが違ったらしい。
扉を開けて中に通す。蝋燭に火を点けて、明かりを灯した。離れて行こうとすると腕を引っ張られてしまった。何事かと、少年を見る。
「あの、怖いって訳じゃ無いけど一緒に居たいってばよ」
蝋燭が点いた事で幾分かはマシになったが、薄気味悪さ満点の内装である。相手が吸血鬼だろうが一人で居る方を選ぶ何て堪ったもんじゃない。怖すぎる。よくよく観察してみれば、蜘蛛の巣も沢山はっている。あ、ハエがぐるぐる巻きにされてる...嫌な物を見た、食事風景なんて観察するものじゃないな。気味が悪くて敵わない。
これは確実に怖いからだ。何の見栄なのだろう。こんな所で嘘を吐いても誰かに見られている訳じゃないのだが、何を気にしているのだろうか。人間は総じて、こう言う物なのかもしれない。人間だった時の記憶は当の昔に忘れてしまった。
自分は何が好きだった?甘いお菓子?苦味のある酒?食べごたえのある肉か?どんな味がしていたかな。思い出す事が出来ない。普通の食べ物は身体が受け付けないのだ。食べたいと思う事すら無いのだから、食べ物の味など忘れてしまって当然だろう。
「一緒に居たら駄目だってば?」
物思いに耽っていたせいで、すっかり返事を忘れていた。眉尻を下げて、此方を見つめる少年に笑い掛けて話す。
「良いよ、おいで」
蝋燭を吹き消し、手を繋いで歩き出す。少し落ち着いてからにしようと思っていたのだが、先に食事を作って食べて貰う事にした。ダイニングルームへと案内する。
「此処で待ってなさいね」
椅子を引いて座らせた。キッチンに向かい、簡単なパスタとスープを作って持って行く。
「頂きます」
食べないのに、美味しい料理が作れる何て変だ。それとも餌を与える要領で、上達したのだろうか。
「美味しい?」
「美味しい」
神妙な顔付きで応えた少年に思わず笑ってしまう。眉間に皺を寄せながら話す内容ではないのだが僅に警戒心すら感じさせる態度で、さすがに異変を覚えた。しかし、まあ敵戦地に単身で乗り込んだような状態である。突っ込んで聞いてみる事は嫌われそうで出来ない。只でさえ、殺されるかもしれないという気持ちを抱いている相手だ。下手に刺激して手放さなくては、ならない状況になってしまっては本末転倒である。
食べる手は止まることが無く、口に運ばれていく。美味しいという言葉に嘘はなかったらしい。
「ごちそうさまでした」
綺麗に完食された食器をシンクに持って行き、手を泡まみれにしつつ洗う。誰かに尽くすというのも存外、楽しく感じるものだと印象に持った。やはりペットとして置いておきたい。しかしながら、時間という問題があるのだ。いつかは、この少年も大きくなり私より歳を取るのだろう。