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□甘いキスを、俺に頂戴。(後編)
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愛し
愛され
キスをして
……このまま
重なってしまいたい
甘いキスを、俺に頂戴
『甘え下手な君に救いの手を』
─────────おし[あ]と
翌朝景吾が目を覚ました頃、外はすっかり明るくなっていた。
いつもは客と別れるまで寝たりしない。
たまに行為の疲れで気を失っても、朝になる前には意識を取り戻すのに。
侑士の腕の中はあまりにも優しく、温かくて。
遠い昔に失ったはずの何かを見つけた気がして。
(…侑、士………)
知らず知らずのうちに気を許してしまった。
そんな自分の失態にさえ口元が緩んでしまうのだから、どうしようもない。
(……侑士…、…ゆうし…)
心の内で、昨日初めて口にしたばかりの名前を繰り返す。
何故だろう、それだけのことで胸が熱くなって、瞳は潤んだ。
…やっぱり。
こんな気持ち、知らない。
「──……景吾?起きたん?」
ふいに頭の上で低い声が響いた。
寝起きにしてはしっかりし過ぎているその口調。
ずっと前から起きていたのだろうと察しがついた。
やっと意識が覚醒してきて。
ああ、一晩中抱きしめられていたのか、と。
「おはよう、景吾。」
背中に回された腕から感じる体温と、顔を上げた瞬間目の前にあった微笑みで気づく。
「……ゆ、…し……」
「…え、ちょ…、な、なんで涙目なっとるん…っ?…あ、も、もしかして腕苦しかったんか?堪忍……」
そう言って、慌てて甘い束縛を解こうとするから。
咄嗟に侑士の首元に顔を埋めた。
「わ、……景、吾…っ…?」
「………すな………」
「……え…?」
「…放すな…、…も、少し…」
命令口調には似合わない、震えた声。
可愛くて、嬉しくて、愛おしくて。
浮かせた腕を再び白い背中に滑らせて、もう片方の手でそっと薄茶色の髪を撫でた。
「……ん…、分かった……」
囁くと、安心したかのように身体の力を抜く景吾。
「……かぁわええ……」
耳たぶに、ちゅっ、と音を立てて口付けると、ぴくん、と肩が揺れる。
首、肩、こめかみにも。
何度も唇を押し当てた。
「…っ、や…、待て…、馬鹿…っ……ぅあ……」
もぞもぞと微かな抵抗を見せる景吾があまりに可愛過ぎるから、調子に乗って。
肩口に埋まっていた頭を、頬に手を添え持ち上げた。
真正面から見た景吾の頬は、熟れた桃みたいに色づいていて。
「…美味しそ…」
「…あ…?なに……っん、ん…ぅ、……っ…」
唇を奪えば、甘い吐息。
言葉通り、いっそ食べてしまいたいという欲望が生まれる。
「…ほんま、景吾って甘いな」
「…はぁ…っ、…味覚イカレてんじゃねーの…?」
「や、絶対甘い。」
犬みたいに顔やら首やらを舌でなぞると景吾は、くすぐったい、と体を捩る。
二人きりの狭い部屋に、二人分の笑い声が響いた。
……ずっと、こうして。
一緒にいたい。
ずっとこうして、笑い合って、触れ合って。
いつも隣にいてほしい。
───そう、願った。