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□終わりの見えない恋をしよう
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ご安心ください
我が主(あるじ)。
貴方だけは離さない
………絶対に。
終わりの見えない
恋をしよう
『幼い低温火傷』
────────[お]しあと
昔々ある国に、それはそれは美しい少年がおりました。
端正な容姿に加え頭脳明晰、おまけにテニスの才能までをも持ち合わせている彼は、国内屈指の大財閥ご子息。
完璧過ぎる少年に、人々は皮肉を言う気にすらなりません。
誰もが彼の幸せを疑いませんでした。
まさか彼の一番の幸せが、豪勢な暮らしでも類い希なる才能でもなく、たった一人の執事を傍におくことだなんて。
知る由もなく。
* * * * * * *
「困ります景吾様、それはもうすでに決定事項で……」
「煩い。当日の朝に招待状など無礼にも程がある。俺は行かないからな。」
「し、しかし………」
まるで迷路のようなお屋敷の奥にある大広間。
朝食をとる景吾の眉間には深いシワが刻まれている。
斜め後ろには、困り顔のメイドが数人。
「それに俺は今日手塚とテニスをする約束がある。約束は先のものが優先だ。」
「ですが、今日のパーティーには手塚家も招待されているはずです…国光様も……」
どうやら突然パーティーの予定が入り、ご機嫌斜めのようだ。
メイドの言葉を遮るように口を開く。
「んなこと知るかよ。手塚だって約束破ったりしねぇ…「国光様には今日の予定を変更してほしいとお電話致しました。」
耳元で突然聞こえた声に勢い良く振り向くと、実に胡散臭い笑みを浮かべた男が立っていた。
「侑士……てめぇ何勝手なことしてやがる……?」
鋭い目つきにメイドたちは後ずさるが、侑士と呼ばれた男はまったく動じない。
「今日のパーティーは跡部家の大切な取引先である幸村家が主催したもの。お気持ちは分かりますが、どうかご出席ください。」
「い・や・だ。手塚は行くとしても俺は行かない。だいたい俺様が主役でないパーティーなんか面白くもなんとも……」
「景吾。」
低い声に、景吾はぴくん、と肩を震わせた。
咎められた気がしたからではない。
あまりにも甘く、優しい響きだったから。
細い指が首筋をすぅ…、と撫で、耳たぶに吐息を感じた。
「…景吾。あんまり聞き分けのない悪い子は、お仕置きやで…?」
「………っ……」
メイドたちには見えないように、もう片方の手が景吾の太ももを滑り……
「…っ、分かった!出りゃいいんだろ!」
「ありがとうございます。」
耐えきれなくなった景吾がそう叫ぶと、顔と手は素早く離れた。
「景吾様もご出席くださるそうですよ。」
メイドたちに向ける笑顔は、爽やか過ぎて怪しげである。
「そ、そうですか!ありがとうございます、景吾様!」
「……いや、俺も少し大人気なかった。すまない。」
むすっとしながらも頬はほんのり桜色な景吾に、メイドたちは安堵の笑みをこぼした。
「侑士様も、ありがとうございました。」
「いいえ、私は景吾様の執事ですから。それと、様付けはおやめください。私も貴女方と同じ、跡部家に仕える身です。」
そう言って柔らかく微笑むこの男こそ、景吾の専属執事であり実はそれ以上の関係でもある、忍足侑士。
代々跡部家に仕える役目を持つ忍足家の、有能な跡継ぎ。
景吾と同い年でありながら、子どもとは思えない並外れた能力を認められ、12の頃から景吾の執事を務めている。
なんだかんだで3年の月日が流れ、気付けば周囲には言えない関係になっていた。
メイドたちが部屋を去ると、景吾は侑士を恨みがましく見つめる。
「なんだよお前、いつもは味方するくせに。テニスさせろよ役立たず。」
「景吾が手塚なんかと約束するからやん。会わせとうなかっただけですぅー。」
「はぁあ?」
下らない理由とカンに障る語尾に呆れていると、ふいに腕を引かれ抱き締められた。
「…あんまりヤキモチ、妬かせんといて…?」
切なげな声に、不覚にも愛しさを感じる。
垂らしていた腕を、そっと侑士の背中に置いた。
「ったく…テニスするだけだっつーの…」
ちゃんと面倒くさそうな声色に出来たか、それが心配。
嬉しいなんて、バレたくない。
「…汗なら俺と流そうや。」
「……は……?」
しかし景吾の努力は無駄だったらしく、意味も分からないままテーブルに押し伏せられた。
「ちょ、なに………」
「ん?景吾が可愛すぎて盛っちゃった。」
「盛っちゃった、じゃねーよ!猿かてめぇは!どけ!」
じたばた抵抗する景吾と、とりあえずキスがしたくて顔を近づける侑士。
目撃者がいたのなら、間違いなく侑士は警察に捕まるだろう。
「てんめ…、主人になんてことすんだこら!」
「言わんでも分かっとる、ひとつになりたいんやろ?仰せのままに、我が主…!」
「くたばれ!!」
……結局暴れた景吾の膝が侑士の急所に直撃し、うずくまっている執事に更に蹴りを食らわせた後、主人は自室へ逃げていった。