混沌的世界戦記・ヴィジュアル侍乱闘編
□第九話 結局は元通り
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世界暦2036年 天魔京 中央地区
万屋集団 木綿豆腐
この日、店舗内に衝撃が走った。
なんと、雪千代が女装をやめてしまったのだ。
第九話 結局は元通り
「姫!?どうしたのよ一体!」
舞楽は彼の姿を見て驚愕する。普段の露出の高い花魁衣装ではなく、ちゃんとした侍衣装を纏っていたのだから。
しかしよく見ると、普通の侍衣装とは変わった作りである事に気づいた。
上半身は黒地に赤の着物と鷺の模様の入った陣羽織といたって普通だが、袴である部位は、超がつくほど長いロングスカートになっていた。その裾から見え隠れするレツペアンザのロングブーツがアクセントになっていた。
それは、いわゆるヴィジュアル系ロックバンドが着ている様な
パンクな侍衣装
であった。今までの衣装に比べると、若干まともではあるが、どことなく女性を思わせる着物は、華奢な彼に似合っていた。
化粧もいつもに比べると薄く、よく眼を凝らすと、ひげのあとが見えてしまう。
「師匠の仇も取ったからね。そろそろ俺も男に戻ろうと思ってな」
いつものお姉口調ではなく、普通の口調の彼は違和感全開であった。
「それじゃ、これからなんて呼べばいいんすかね?」
困惑した表情で、智伽はギィティール達に問いかける。
「雪千代って呼べばいいじゃねぇか」
雪千代はあっさりと言い放つ。しかし、今まで
姫
と呼んでいた彼らに、いきなりそう呼べとは無理な注文であった。
「じゃあぁ、あたしは雪ちゃんって呼ぶわねぇ」
「ミル姉!ナイスアイディア!!」
女性陣はそう呼ぶ事に決まった。
「俺は雪千代君って呼ばせてもらうぜ」
「じゃ俺は雪さんって呼ぶっすよ!」
各自、雪千代の呼び方が決まり、新体制でこれからの依頼に備える。
本日の依頼は、天魔京周辺の遺跡に巣食う魔獣を一掃する事。
遺跡は半分以上が倒壊し、残っているのは支柱のみといった非常にさびれた建物であった。
「ここに魔獣が…」
雪千代は注意深く周辺を見渡す。
すると、巨大な肉の塊のような姿の魔獣が数匹、遺跡より現れる。
「ねぇギィティ、あれって食用じゃなかったかしらぁ?」
「確か、俺らの時代じゃ家畜だったよな」
二人の言葉は意外だった。
「美味しいのか?」
雪千代は興味本位で尋ねてみた。
「野菜炒めとかぁ、カレーによく合うんだよぉ」
ミルフィーの話を聞いても、彼にはどんな味なのか想像できなかった。
「豚肉みたいな味だったな」
ギィティールの一言で、周りは騒然とした。
どう見ても肉の塊にしか見えない魔獣の味が豚肉のような味…
想像しただけで気持ち悪くなった舞楽は、その場にへたり込んでしまった。
「ゴメン…私パス……」
貧血を起こしたような顔色で彼女はうなだれる。
(言わなきゃよかったかな…?)
ギィティールは申し訳なさそうな表情で彼女を見つめていた。
「ミルフィーちゃん、舞楽を頼む。魔獣は俺達が何とかするよ」
腰に携えた化粧麗人を抜刀し、戦闘準備を開始する雪千代。
それに合わせて変身する智伽。
ギィティールも大剣を召喚し、準備を整える。
「ゴメンね…頼むわよ雪ちゃん」
「了解っ!!」
いつもと違うテンポの彼に、一同は一向に違和感をぬぐえないでいた。
(何か別人っすよね…)
(声かけづれぇよな…)
ギィティールと智伽は彼に聞こえないよう、子声で感想を述べる。
「ギィティ!智っち!行くぜ!!」
彼らの思いを知らない雪千代は意気揚々と魔獣に向かって行く。
「お……おうよ!」x2
挙動不振に陥りながらも、彼の後を追う二人。
「キシャァァァァァァァァッ!!」
豚肉味の魔獣は無数に牙の生えた口をあけて、彼らを威嚇する。
魔獣が狙ったのは、三人の中では、ひときわ目立つメタリックな輝きを放つトモカイザー。
「むぅ、俺は美味くないぞ!!」
レーザーブレードを掲げて、魔獣に斬りかかる。
ジュバァッ!!
レーザーブレードで溶断された部分からは、何やら香ばしい匂いが…
「確かに豚肉っぽい匂いだなぁ」
雪千代はギィティール達が言っていた事に、深く納得した。
「ギャギャギャギャギャっ!!」
突然背後より叫び声が聞こえ、振り向く雪千代。
「不意打ちになってねぇよっ!!」
太刀を振り上げ、魔獣に攻撃を加えるが、その動きはいつものキレがなく、簡単に魔獣に避けられてしまう。
「何やってんだ雪千代君っ!!」
慌ててギィティールが加勢に駆けつける。
「おかしいな…」
雪千代本人も、何故攻撃をかわされたのか理解できていないようだった。
豚肉味の魔獣と交戦中、雪千代の動きにいつもの華麗さはなくなっていた。何故、そうなってしまったのかも、本人には判らない…