混沌的世界戦記・ヴィジュアル侍乱闘編

□第八話 宿命、もしも…
2ページ/19ページ

届かない想い、届かない願い
叶わない想い、叶わない願い
強大な敵を相手に、勝ち目のない戦いを挑む
それは誰の為?自分の為?あの人の為………?
フン、涙はとうの昔に枯らしたよ
この女装姿と共にね…
貴女の夢、貴女の思い出、貴女の事、忘れない…
生きる限り貴女の面影、この身に宿して…

第八話 宿命、もしも…

世界暦2036年 天魔京 西地区
ゾルゲルゲ襲撃の知らせを受け、雪千代達は現場に向かった。
襲撃現場は、大手家電メーカー本社ビル。
被害はビル半壊、従業者数名死傷、駆除師数名死亡。
しかも、まだ戦闘が続いている様子だった。
「お前ら、なかなかやるねぇ」
部隊を指揮していた松下 録斎は、目の前に立ちはだかる二人の青年を睨む。
「てめぇなんかに誉められても嬉しくねぇな!」
包丁のような大剣を構えた茶髪の青年ヤゾウドは、血の混じったつばを吐き捨てて睨み返す。
「俺達は貴様を若様の前にしょっ引かなきゃならないんでね!」
特殊加工の剣を折りたたみ、柄から銃口を引き出し、録斎に向ける黒髪の青年マッキー。
「さぁ、もっと楽しませてくれよっ!!」
録斎は刀を身構えて、二人に飛び掛る。
「くっ!」
ヤゾウドは剣を振り回し、攻撃をかわすが、録斎の刀より発せられた黒い閃光を受け、吹き飛ばされる。
「ヤゾウド!」
マッキーは魔力の宿った弾丸を乱射し、彼を援護する。
「外野はすっこんでろい!!」
銃弾を黒い幕で遮断した録斎は、左手より黒い閃光を乱射し、マッキーを攻撃する。閃光は彼の前で炸裂し、おびただしい量の衝撃波を食らわせる。
「がはっ…」
防ぎきれず、マッキーは殆どの衝撃波が直撃し、弾き飛ばされる。
「っ!てめぇ!!」
ヤゾウドは怒りに我を忘れ、大振りな攻撃を連発しだす。
当たれば致命傷になりそうなほどの攻撃は、次第に録斎を追い詰めていくが
「兄さんよ、見え見えだぜぃ…」

ドブシャッ…

肉の切れる音と共に、ヤゾウドの腹から鮮血が噴き出す。
「な…」
彼はそのまま地面に倒れた。

「ヤゾウドっ!!」
雪千代がその場に駆けつけた時には、勝負は決していた。

血の海に倒れ込むヤゾウド

それは、彼の記憶の中にあった、最も忌むべき過去

師匠の死

を鮮明に思い出させた。
「録斎!てめぇぇぇぇぇぇっ!!」
抜刀し、果敢に飛び掛る彼の姿を見て録斎は絶句した。
「藤代…生きてやがったのかぃ!?」
彼には雪千代が、比女に見えた様だ。
「許せねぇ!」
刀を交わしながら雪千代は叫ぶ。次第に録斎も、彼が別人だと気づく。
「藤代じゃねぇな!何者だい…」
「師匠の弟子だった男だ!!」
録斎の脳裏に、比女に付き従っていた優男の事が思い出された。そして、以前傷つけられた右肩が疼き出す。
「そうか!てめぇかっ!!」
彼の緋色の瞳は怒りに燃える。刀を持ち替えた録斎からは、異様な殺気が湧き上がる。
「姫…」
ただならぬ殺気は、ヤゾウド達に回復魔法をかける舞楽やミルフィー、そしてギィティールにも伝わった。
だが、智伽は気づいておらず、ただこの状況に慌てるだけであった。
「師匠の仇、取らせてもらうっ!!」
雪千代は身構える。彼から発せられるオーラは誰にでも見えるくらい克明に発光していた。
「あの時よりは楽しめそうだな!!」
そう呟き、雪千代に襲い掛かる録斎。その攻撃は素早く、それでいて重い。
「っ!!」
咄嗟に刀で受け流した雪千代の右手が痺れる。
更に、録斎は攻撃の手を緩めず、彼に反撃の隙を与えない。
「おいおい、どうしたオカマちゃん?」
録斎は挑発するように、彼をオカマ呼ばわりする。
「てめぇに俺の何がわかるっ!!」
雪千代は獣のように咆哮すると、彼の攻撃を力任せに弾いた。
師匠を忘れたくない一身で、彼女の姿を模した雪千代。はたから見れば

女装好きかオカマ

と思われるが、根底には、彼の辛い過去が起因している。
その原因を作った男、録斎にオカマ呼ばわりされた彼の怒りは、一体どれほどのものだったのであろうか…?

「録斎ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
雪千代の刀が激しく発光し、炎を纏う。
そのまま突進した彼は、録斎の刀を断ち割ると、勢いに任せて袈裟斬る。
「ぐあああああああっ…」
傷口は燃え上がり、裂傷と火傷の痛みが彼を襲う。
苦悶する彼の傷口をロングブーツのピンヒールで蹴り飛ばし、間合いを取る雪千代。

裏属性 幻

それは火、水、土、風、雷、の要素を作り出す属性であり、熟練者が使えば相当の力を発揮する。
彼の師匠は水属性であった為、幻属性を伸ばす事は出来なかった。
師匠亡き後、彼は独学で属性を伸ばしていった。

「ぐぬぅ…」
録斎は必死に立ち上がり、雪千代を睨む。
「録斎…てめぇだけは許せねぇ…」
普段の彼からは想像できないほどの殺気を帯びた瞳で刀を握る。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ