混沌的世界戦記・ヴィジュアル侍乱闘編

□第四話 堕とされし者と甦る者
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第四話 堕とされし者と甦る者

世界暦2036年 天魔京 
ファミリーレストラン 古都 
奥の宴会場で、雪千代達はパーティーをしていた。
「すまねぇな」
ギィティールは照れくさそうにお辞儀をする。
「ギィ兄とミル姉が地上で出会って半年が経った記念なんだから、もっと楽しそうにしなきゃっ!」
舞楽は、照れている彼にお酌しながら微笑む。
「そぉかぁ、もう半年になるんだねぇ」
愛用のぬいぐるみを抱っこしながら、隣に座るギィティールを見つめた。
それに気づいた彼は、ミルフィーの頭を優しく撫でる。
「とりあえず、俺はこれからも君のそばにいるからな!」
その間、彼の脳裏には、これまでの記憶がよぎっていた。

天使と悪魔が争っていた頃
天軍の戦闘部隊を指揮していた青年がいた。
ギィティール・ラインベルグという名の雷爆天使(らいばくてんし)は

天界最強

と噂されるほどの実力を持っていた。そして、その傍らには光流天使(こうりゅうてんし)ミルフィー・ランフォードの姿があった。
二人は互いに惹かれあい、いつしか恋仲となり、誰もがうらやむ間柄となったが、その幸せはある日、いとも簡単に崩れ去ってしまった。
戦争も終結の兆しを見せ始めた時期、ひとつの事件が起こった。
会議から戻ったギィティールは自宅の異変に気づき、表情を硬くする。
自宅で待っているはずの彼女の姿が見当たらず、しかも部屋も荒らされていた。
そして壁には

天空遺跡で待つ
ムルゲ・ホークス

と血で書きなぐられていた。
「ミルフィー…」
ギィティールは血相を変えて飛び出していった。

天空遺跡
天使族の発祥の地とされる古代遺跡。そこは天然の要塞であり、内部を知っている上流階級以外が足を踏み込むと確実に迷ってしまう。
「ムルゲ…!」
苛立ちを抑えきれず、遺跡の壁を蹴り飛ばす。

ムルゲ・ホークス
天界でも有数の実力者であるが、その考え方は非人道的で、他者を踏みにじる事もいとわない行動は危険視され、実力以下の扱いを受けてきた男…

「ちっ!!」
ギィティールは舌打ちしながら遺跡内部に侵入する。
上流階級に生まれ育った彼は幼少の頃、この場所で幾度となく鬼ごっこや隠れんぼなどをして遊んでいた。しかし、年を重ねていくうち、彼は一つの事実に直面する。

父親は天使族…
母親は悪魔族…

戦争以前は家族であったが、戦争勃発と共に親子離れ離れになってしまった。
悪魔族出身の母と、悪魔族の血が強かった弟とも離れて生活する事を余儀なくされた。
そして、戦場で兄弟は再会する。それは奇しくも

種族最強

という噂を持っていたのだ。
数え切れないくらいの死闘を二人は演じてきた。
いや、戦う事しか出来なかった。己の祖国、尊厳をかけて…

その事を思い出しながらギィティールは、遺跡中心部に到着した。
「!?」
そこに広がる光景に、彼は絶句した。

衣服を破られ胸から出血しながらも、柱に縛り付けられているミルフィー。
その傍らにたたずむ赤髪の男。
「ミルフィー!!!!」
背中に背負った大剣を抜刀し、怒鳴りながらその場に躍り出る。
「ようやくおいでなすったか。えっ?ギィティールさんよ!」
ムルゲは見下したような笑顔を見せる。
「その娘を返しやがれ!」
飛びかかろうと迫る彼をけん制するように、ムルゲは縛りつけた人質の前に立ち塞がる。
「おおっと、動くんじゃねぇ!こいつがどうなってもいいのか?」
「くっ…」
彼女を人質にとられている以上、ギィティールは手を出せない。それも計算の上なのであろう。
「天界最強と謳われるお前でも、この状況じゃどうにもならねぇよなぁ?」
ムルゲは嘲笑した。自分の有利さも手伝って、彼はこの状況にしびれていた。
「貴様…何が目的だ…?」
目つきの悪い目を更に悪くして、ムルゲを睨む。
すると、彼は呆れた様な表情を見せる。
「…わからないか?お前は薄汚い悪魔の血が流れてるってのに英雄扱いされやがって………」
次第にムルゲの顔は怒りで赤く染まり、全身が小刻みに震え出した。
「俺は偉いんだ!英雄なんだよ!!お前のような劣等種が純潔な俺より英雄ヅラするのが許せねぇんだよっ!!」
ムルゲは天使族同士の間に生まれた男である。それゆえに純潔である事を誇りに思っていた。だからこそ、悪魔族を母親に持つギィティールの存在が許せなかったのだ。
「…貴方は間違ってるわ。いくら強くてもぉ、人を認める事が出来てこそ本当の英雄だよぉ…」
弱々しい口調でミルフィーがムルゲに語りかける。その言葉を聞いた途端、ムルゲは彼女を縛っていたロープを引きちぎり、崩れ落ちる彼女の首を握る。
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