混沌的世界戦記・ヴィジュアル侍乱闘編

□第九話 結局は元通り
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「遊んでんのかよ!?」
攻撃の当たらない雪千代に、だんだん苛立ってきたギィティールは怒鳴りつけるが
「遊んでなんていねぇよっ!!」
と、顔を赤くして反論する。
彼の必死な表情からしても、嘘をついているようには見えないが、攻撃が当たらないのもまた事実。ギィティールは困惑する。
「これでも食らえっ!!」
雪千代は太刀に冷気を纏わせ、大技を繰り出すが
「あわわわわっ…」
踏み込んだ右足が、ロングスカートの裾を踏みつけてしまい、その場に転んでしまった。
(なるほど、あの着物のせいか…)
ギィティールは苦笑する。
考えてみると、今までの露出の高い花魁衣装は、ロングスカートに比べると、太ももを見せた造りになっており、刀を持って踏み込むのには適していた。

結局、この日の雪千代に活躍の場はなかった。
その後の魔獣駆除やゾルゲルゲとの戦闘でも、彼は本領発揮できず

お荷物

というレッテルまで貼られてしまった。今や、戦闘能力で言えば、バトルモード発動前のトモカイザーよりも低いのである。
それと並行するように、雪千代からは今までの研ぎ澄まされた感覚が欠如しているように見られはじめたのだ。
つまり

殺気を感じ取れるほどの緊張感が失われた

のである。遺跡調査では、簡単なトラップに引っかかり、魔獣駆除では攻撃を当てる事すらままならず、攻撃を避けそびれる事は数知れず…

「まるで抜け殻よね…」
電卓で報酬計算をしながら、舞楽は溜め息を吐いた。
彼女の言う通り、復讐劇を終えて男衣装に戻った雪千代に、以前の鋭さは感じられなかった。
今回彼は、大手ハンバーガーショップ

ワクナモルト

の駐車場警備の仕事に出かけていた。
「仇討ちがぁ、雪ちゃんのぉ存在意義だったからねぇ…」
熊のぬいぐるみをおんぶしながら、雪千代の事を心配するミルフィー。
「とりあえず、黙って見守るしかねぇか」
タバコをふかしながら、お気に入りの電動ゴリラロボットの埃を取りながら、かっこいいポーズをさせようと奮闘するギィティール。
「ギィティールさんとミルフィーさんって似た者同士っぽいっすよね」
智伽の言葉を聞いて、お互いを見つめ合う二人。

ぬいぐるみ好きな光の天使
おもちゃ好きな雷の堕天使

確かに共通した部分があった。
「ちょっとしたバカップルみたいよね」
「ひでぇぜ舞楽ちゃん!そんな言い方ねぇよ!!」
「そうだよぉ!」

ぴんぽ〜ん…

一同が談笑していると、チャイムが鳴った。
「はいはい、どちら様ですか?」
舞楽は慌てて玄関に向かう。

玄関に立っていたのは、いかにも侍といった風貌の男性であった。背丈は比較的高く、顎の尖った無骨な顔立ちで、腰には見事な装飾の施された鞘が目を引いた。
「お嬢さん、つかぬ事をお聞きするが…」

駐車場警備の終えた雪千代は足取りも重く、帰路につく。

何やってんだろ俺って…

ここの所、思うように働けない雪千代は自問自答を繰り返していた。
自分でも信じられないくらいのヘタレっぷり。そのおかげで魔獣駆除などの戦闘には行けず、定年退職した男性の仕事のような依頼ばかりをする羽目になっていた。

どうすれば、この状況が打破できるのかは、己の心の中ではわかっている。しかし…

復讐を終えた今、あの姿に固執する訳にはいかない。あの人が心配してしまう…

雪千代が女装をやめた理由は、このような考えからであった。
仇討ちの終わった今、いつまでも師匠の姿を模していては、彼女が成仏できないのではないか?
そう思うようになった雪千代は、意を決して女装をやめて男に戻った。
しかし、それによって彼は弱体化してしまった。
「…」
雪千代は浮かない顔をしながら、木綿豆腐に帰ってきた。
「ただいま…」
覇気のない口調で店のドアを開ける。

ヒュンッ……ゴスンッ!!

突然、空気を裂く音が聞こえたかと思うと、雪千代の後頭部に衝撃が走った。
「ぶげっ!!」
そう言い残して、雪千代は気絶した。

「ありゃりゃりゃりゃ…こりゃ失敬」
だらしなく気絶している雪千代の背後に、先ほど店に訪れていた侍が木刀を構えて、申し訳なさそうな表情で立っていた。
「ちょっとちょっとっ!!ちゃんと手加減したんでしょうねっ!!」
雪千代の側に駆け寄る舞楽は、侍を睨みつける。
「無論。しかし……避けれないとは何とも言えぬのぅ」
顎をしゃくりながら、雪千代を見て呆れている様子であった。
「なっ、弱いって言っただろ?」
タバコをくわえながら、ギィティールは溜め息を吐いた。
「う〜む、拙者の見込み違いかのぉ」

それから数分後、雪千代は意識を取り戻して、こうなった理由の説明を受けた。
「何じゃそりゃ…」
頭に出来たこぶを触り、呆れた表情を見せる。
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