novel

□夢見るトナカイ
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チョッパー。チョッパー。チョッパー。

呼ぶ声がするよ、誰だろう、

なつかしいなあ、




「ねえ、ナミちゃん」
静かな声が航海士を呼ぶ。落ち着いた女性の声。羨ましい。
「なあに、ロビン」
手元のアールグレイの紅茶に延ばしかけた手を止めずにナミは応える。特注のデッキテラス。世界中どこを探しても他にはないと自慢出来るほどの優雅さだと、ナミは自負している。海風が気持ちいい。腕のいいコックの入れる紅茶は悔しいくらいに美味しい。そのことを伝えるつもりはないけれど。
「あなた、夢はみる?」
唐突な質問。あまり表情を崩さない考古学者は、はっきりいって何を考えているかよくわからない。
「なに、夢占いでも始めたの?」
いぶかしげに横目で見つめた。占いの類とは縁遠い人物と思っていたのだけれど。
彼女は、いいえと答えて、下に広がる甲板を指差した。
「笑いながら眠るのね、トナカイも」






チョッパー。チョッパー。チョッパー。

聞き覚えがあるんだ、

誰の声かなんて、

本当は知ってるよ、俺、







ハンモックに揺られているトナカイだなんてまるで捕らえられた獲物ね。
大まじめにそう続けた考古学者に、ナミは吹き出した。
見上げた太陽は、船の丁度真上に位置していた。
青い空はどこまでも高く、雲ひとつない。ワーワーといつも大騒ぎの源である船長と長鼻は、先程からおとなしくとなりでテーブルゲームに熱しているし(とは言えやはりたまに奇声を発してはいるが)、剣士と船大工もそれぞれ自室に篭っているようで、波の音と風の音だけが静かに通り過ぎていく。
なんて素晴らしく、完璧な航海。
もうすぐあのしつこいコックがランチタイムを告げるだろう。煙突から白い煙が雲のようにぽんぽんと上がっている。
「いい夢でもみているのよ、きっと」
思わず頬がゆるむ。
いつも船長らとつるんで暴れまわったり、怪我をすると大人ぶって説教する船医も、こうして眠っている間はただの子供であり、ただの小鹿、いや子トナカイでしかなかった。
うらやましいわ、と呟いた考古学者は、にこりと笑ってまた手元の難しそうな本に目を移した。

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