頂きモノ

ゆめうつつ
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目の前には鮮やかな橙。
少年の匂いが鼻先を掠めた瞬間に温かい腕が背中に回される。


抱き締められている――――そう判ると妙に納得いかない。自分よりも小柄な少年に抱き締められている、それは林冲にとってみれば無性に気に食わないものに指定されている。

だから林冲は少年を自分から引き剥がそうと彼の胸板を思い切り押す――――……押した、筈だった。






***





「…………大変不本意ながら、キミが夢に出てきましたよ」


「へェ、そりゃ光栄」





林冲が告げれば件の少年、もとい戴宗は何時もの意地悪げな笑みを浮かべる。

言わなければ良かった。別に言う必要も無かったのだが印象が強烈だったのだ。

夢というのは目覚めた瞬間に大概忘れるモノ、しかし記憶に留まる夢はどうしたって気になるのだ。


……林冲の夢だって現実味を欠いたようなものだった。

どんなに戴宗の腕を拒絶しても何故だか腕に力が入らない。なのに夢の中ではそれが現実、疑う余地もない世界。そんなものを目覚めた後にまで持ち出した所で笑われる以外の何もないのに。





「………………」






――――そう、思っていた。



眼前には橙色、鼻先を掠めるのは戴宗の匂い。

身長差など関係無いとでも言うように同然の如く林冲を包む腕は温かい。




「何してるんですか」


「……オレはおたくの夢の中まで支配出来たんだよな?」


「………………そうですね」





夢を見るのは想うから、覚えているのはその想いが強いから。

それって告白と同義じゃね?と言ってきた少年、きっと何時ものように口の端を愉しげに吊り上げているのだろう。

今なら戴宗をひっぺがせる。

その考えに至るは必然、あの光景を辿るように戴宗の胸に掌を当て少しだけ力を加えた。



――――しかし同時にまあいいか、とも思う。






(悔しいですけど、嫌ではありませんから)















夢の中での現実は夢の中の光景。

どうせなら、倖せなのが現実だと良い。





























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