頂きモノ

練習
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下手くそな奴だと思った。「ん…痛っ」
ファウストの唇から血が一筋垂れる。
「嗚呼、ほら、落ち着いて」舐めとってやりつつ呆れた声で諌めた。キスが苦手だから練習させてくれ、と言ってきただけのことはある。全く、何故口付けが流血沙汰になるのだろう。
「はい…」
焦って噛んでしまった箇所を気にしている様だったが、またすぐおれに向き直る。青い目を閉じると金色の睫がやたら目立った。支える為頬に手を添えると、ピクリと眉をしかめる。まだ緊張しているらしい。おれが初めてでもないだろうにかわいい奴だ。
ゆっくりと、ゆっくりと唇を重ねた。
「んぅ…」
僅かに体を震わせる。そんな風に動揺するからケガする羽目になるのだ。ファウストが頑張っている隙におれは目を開け、眼前の彼を堪能する。慣れていないのか、頬まで薄く染めて真摯に目を閉じているファウストは非常にかわいかった。もう練習なんてしなくてもいいのではないだろうか、これで十分だと思う。とはいえこの行為についておれに異存がある訳ない。
ずっと彼を眺めていても良かったが、そろそろ違う反応も欲しかった。止せば良いのに悪戯心を出して、舌を滑り込ませてみる。何とかエロい方向に持ち込めないかという助平心も手伝って。柔らかい舌先が触れ合う。
「ん?!」
結果、ファウストは驚いたように目を開けて、少し間を開けガッチリおれの舌を噛んでくれた。ついでに突き飛ばされる。
「痛っ!」
「何でキスしてる最中に目を開けるんですか?!」
「怒るとこはそこか?!」
「舌入れてきたことについても怒ってます」
そうですか。舌と突き飛ばされた胸の痛みをかみしめながら考える。普通なら反省すべきところなのだろうが、おれは覿面な嫌がらせを知っている。
「でも、口付けしているときのお前は本当にかわいかったよ、顔を赤くしてしまって…」
「うるさいな!」
「楽しかった?」
「ああもう…」
「おれは楽しかった」
「…」
それ以上言わないでくれ、という表情のファウストに浴びせる言葉責め。褒めているだけなのに、本人は恥ずかしいらしい。
「それでだ、ファウスト」
「何ですか」
優勢に立ったところで舌を出す。
「先程お前に噛まれた所が痛いんだが」
「…舐めろ、と?」
「察しがいいな」
「そんなキス、したことないんですけど」
練習はまだまだ続きそうだった。

















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