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□戯れ
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夜、寝るにはまだ早い時間に朱貴と林冲は同じ部屋にいた。
朱貴は林冲の髪を梳いていた。
「ほんと…髪、綺麗よね。」
櫛で林冲の髪を梳いている朱貴が呟いた。
「よく、そう言われます…。ところで貴方は何故、私の髪を梳いているんですか。髪を梳くことくらい自分で出来ます。」
林冲は明らかに不機嫌そうな声で言った。
「あら、別に良いじゃない。それに私は貴方の髪に触れてみたかったのよね。」
朱貴は櫛を持っていない手で林冲の髪を一房すくった。
すくった髪の毛は朱貴の指の間から元の場所へと落ち、戻っていた。
「ほんとに凄く綺麗。」
「……………。」
林冲は正直、どう言えばいいのか分からなかった。
女性なら言われたらきっと喜ぶ言葉を言われて。
男である自分はそんなことを言われてどう答えるべきか前から分からなかった。
柄でもないが自分ばかりこういうめにあうのはなんか癪だと思った。
部屋にある棚の上に朱貴が林冲の髪を梳いていた櫛とは別の櫛があった。
林冲は立ち上がり、その櫛を手にとった。
「この櫛は貴方のですか?」
「ええ。そうだけど、どうかしたの?」
その言葉を待っていましたとばかりに林冲は笑みを浮かべた。
「お礼に私も貴方の髪を梳いてやりたいと思いましたので。」
「お礼なんて…。私は自分のエゴで勝手に貴方の髪を梳いていたのに。」
「遠慮なんてしなくても良いんですよ?」
有無を言わせない林冲の雰囲気に朱貴は流されるままだった。
林冲は朱貴の後ろに座り、結い紐をほどいて髪を下ろした。
朱貴はまだ戸惑ったままの様子だったが林冲は朱貴の髪を梳い始めた。
「私は貴方の髪のほうが綺麗だと思うんですけどね。」
「まさか。」
朱貴の笑う声が聞こえた。
それにつられて林冲も笑った。
「ねえ、聞きたいことあるんだけど良い?」
「何です?聞きたいこととは。」
「髪になんかつけてたりする?椿油とか。」
「いいえ、特に何もつけていませんよ。女性じゃあるまいし…。」
「そう…。てっきり椿油とかつけてたりしてるのかと思ってたのよね。」
後ろからは見えないが朱貴はきっと驚いた表情をしているだろう。
「そのようなことを聞く貴方は何かつけてたりするんですか?」
林冲は朱貴の髪を梳いている手を止めずに聞いてみた。
「まさか!私も何もつけてないわ。」
「へえ…意外ですね。貴方なら何かしらつけていると思っていたので。」
「ちょっとソレ、どういう意味!?」
「そのままの意味です。」
「私を何だと思っているのやら!」
そして二人で楽しげに笑い合った。
夜は二人を見守りながら少しずつふけていった。
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