Trezoroj<Noveloj>

□人魚のしっぽ!
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―――事の起こりはアテナ沙織の招待を受けて城戸邸内のプールで遊んだ時のことだった。浮き輪をつけて泳いでいた貴鬼に沙織が言った。

「貴鬼は泳げると思っていたのですが、泳げなかったのですね…。いいでしょう、私が名コーチを紹介してあげます。」


そんな訳で貴鬼は今、アテナご推薦の名コーチ、マーメイドのテティスの特訓を受けているのであるが…。

まさか、初っぱなから海で泳ぐなんて…。てっきり足の着く浅いプールでの練習から始めると思っていた貴鬼には予想外の展開だった。

ポセイドン戦時は、海に飛び込むだけで海底神殿に着いたから良かったけれど、『泳ぐ』となると……その行為自体の難しさと、足下の浮遊感に不安だけが募る。頭の中が真っ白でテティスの指示もなかなか頭に入らない。怖くて、掴んでいる手を離すことすら出来ない。

「ふぅ…。」

テティスは、そんな貴鬼の様子を見て、大きく溜め息をついた。アテナの頼みだから快く引き受けたものの、誰かを指導した経験などないテティス。実は彼女自身も戸惑っていたのである。

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(どうしたらいいだろう…。)

この子は一体どういう時に本領を発揮できるのか、それが分からない。

(ちょっと怒らせてみようか…。)

思い付いた事はとにかく実践。テティスは挑発するような態度で貴鬼に向かって言った。

「貴鬼…。お前たしか、アッペンデックス(おまけ)って言われてるんだっけ?カッコ悪いね。聖闘士になんかなれないんじゃないの?今だって、私にくっついてるだけのおまけみたいだしね!」

さぁ、怒りなさい。怒ってあなたの本当の力を出してみなさい!―――そんな思いでわざとキツイ事を言ったのだが、貴鬼はショボンと頭を垂れただけ。

「どうせおいらは、聖闘士にはなれないよ…。ムウ様にも叱られてばっかりだし…。きっと一生アッペンデックスのまんまなんだ…。」

テティスの思惑は外れ、ますます弱気になる貴鬼。

(なんとかやる気を出させたかったけど、ダメみたいだね…。初めて会った時は、私に攻撃を仕掛けようとするぐらい元気だったのに…。)


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