Librobreto V

□この素晴らしき世界
2ページ/5ページ


「―ずっと、待っていたんです。ずっと、祈っていたんです。
…此処には、神様なんて、来ないのかも知れないと思いながら、それでも、ずっと。」





顔を伏せている所為でくぐもった少女の声が、私の耳に届く。

私に対する畏れと、これから発言しようとする事での極度の緊張からであろう、魂の震えが伝わって来る。





「あんな風になってしまったあの人に、どうしてあげられる事も出来なくて。」






彼女の苦悩が、心に落とされた翳りが、私の意識に入り込む。






己の心の苦しみを解き放つ術を、…『彼』の魂の救済を神に乞うとでも?






「君の望みは何なのだね?」



私はおもむろに切り出した。



今まで俯いていた少女が、顔を上げる気配が伝わる。

彼女の髪が―恐らく肩より過ぎた長さだったのだろう―布に擦れる音が微かにした。






「……神様に、問いたいのです。」



「―問う、とは?…―何を?」


私に促され、少女は一瞬躊躇ったものの、話し出した。





「…私は、此処から出た事が無かったから、此処しか知らない私にとっては、この地が”世界”であり、全てでした。
でも、あの人に出会った事で、”世界”は、色々と沢山あって、散り散りに散らばっているものだと思うようになりました。
…それでも、私はそんな、違った世界で生きて行きたいとは、思いませんでした。
…これが私の運命だと思っていましたから、それはそれで良いと思っていました。…だけど……。」



「―『でも』?―続けたまえ。」



再度私に聞かれた少女は、勇気を振り絞る様にして、少し語気を強めて先を続けた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ