Librobreto V
□この素晴らしき世界
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「―ずっと、待っていたんです。ずっと、祈っていたんです。
…此処には、神様なんて、来ないのかも知れないと思いながら、それでも、ずっと。」
顔を伏せている所為でくぐもった少女の声が、私の耳に届く。
私に対する畏れと、これから発言しようとする事での極度の緊張からであろう、魂の震えが伝わって来る。
「あんな風になってしまったあの人に、どうしてあげられる事も出来なくて。」
彼女の苦悩が、心に落とされた翳りが、私の意識に入り込む。
己の心の苦しみを解き放つ術を、…『彼』の魂の救済を神に乞うとでも?
「君の望みは何なのだね?」
私はおもむろに切り出した。
今まで俯いていた少女が、顔を上げる気配が伝わる。
彼女の髪が―恐らく肩より過ぎた長さだったのだろう―布に擦れる音が微かにした。
「……神様に、問いたいのです。」
「―問う、とは?…―何を?」
私に促され、少女は一瞬躊躇ったものの、話し出した。
「…私は、此処から出た事が無かったから、此処しか知らない私にとっては、この地が”世界”であり、全てでした。
でも、あの人に出会った事で、”世界”は、色々と沢山あって、散り散りに散らばっているものだと思うようになりました。
…それでも、私はそんな、違った世界で生きて行きたいとは、思いませんでした。
…これが私の運命だと思っていましたから、それはそれで良いと思っていました。…だけど……。」
「―『でも』?―続けたまえ。」
再度私に聞かれた少女は、勇気を振り絞る様にして、少し語気を強めて先を続けた。