Librobreto V

□愛しき女神の為その翼を折りしもの、汝の名は…
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−と、少女が防波堤からこちら側に飛び降りる姿が、その双眸に映り込んだ。

−その姿はまさしく、地上に降臨した麗しい女神−

次の瞬間には、少女は少年の腕の中にあった。

−彼女が時折突拍子も無い事をするのに慣れていたつもりであったが、これには少々辟易した。困惑しつつも、少女を気遣う。


「−大丈夫?沙織さん。」


すこしの間、少年の肩にその額を寄せて身じろぎ一つしなかった少女だったが、その言葉に顔を上げた。そうして少年の顔を真っ直ぐに見据え、にっこりとほほ笑む。


「瞬が受け止めてくれたから、もう止めます。」



−そう言って、笑っていても、いつだってあなたは僕らの想いを振り払って、孤独に歩いてゆくのだろう。
 そんなあなたをどうして止められる?−



「どこか痛めてしまった?ごめんなさい、瞬。」


少女の指先が、少年の頬にそっと触れた。ほんの少しだけ、震えているのが、彼には感じられた。



−そう、何人も引き止める事叶わないから、いつでも傍らに寄り添う君が、そこに在って欲しいのに…−



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