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□祈りとどめしその輝きは 神の愛を語り
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ギリシアの夏は暑い。焼け付く様な激烈な陽光と、あらゆる潤いを剥ぎ取ろうかと言う熱風が、間断無く地上を苛む。

一年の内で一番の高みにその座を持つ王者が翻す灼熱の衣の下、アテナのおわす聖域も例外に洩れず平伏し、そこに生きる者達も、その裾の強靭さに辟易していた。



そんな中を一人の男が歩いていた。



その長身はしなやかに引き締まり、すらりと伸びた手足。逆立つ短髪は夜の海の如く艶やかな黒。鋭利なまでに整った顔立ちに、切れ上がった眦がより一層彼の雰囲気を隙の無いものにしている。



彼は休む事なく進んで行く。

この熱波を薙ぎ払うかの様に。




やがて、聖域の外れ―結界のすぐ外側までやって来た。



地上に降り注ぐ光のつぶては、自らの主(あるじ)の気性の烈しささながらで、男が今立ち止まり見上げている、まさに彼の眼前に存在する建物

―かつては神殿であったもの―

までにも襲い掛かっていた。

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長きにわたり光線や風雨との戦いが繰り広げられて来たのだろう、元『神殿』は、もはや支柱には皸があちこちに入り、入口の石段も所々崩れている。

敷石の間からは雑草が、その生命力を主張していた。

祈りの場としての御役目放免となった為に、そのまま放置されこの様な状態に陥ったのは、誰の目から見ても明らかであった。



中の、ある人物の小宇宙により、先客がある事を悟った男は、暫く石段の下に立ち尽くしていたが、軽く息を一つ吐くと、その階を上り、廃墟へと足を踏み入れた。

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