Trezoroj<Noveloj>

□羽ばたく日まで
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俺は今―――。

『木になっている』

『気になっている』の間違いではないのか。そう思った者もいるだろう。確かに正しく言うなれば、実際に木になった訳ではなく、そのつもりでいるだけだ。

しかし、人生には時に思い込みが必要だと俺は思う。受け入れ難い現実に直面した時、それは効力を発揮し、挫けそうになる心を支える柱にもなるのだ。平たく言えば軽い現実逃避……なのかもしれんがな。


ピチチチ…。


小鳥の雛のさえずりが、頭のすぐ真上から聞こえるのは、この際『木にしない』いや、『気にしない』

そもそも俺が何故こんな森の中でつっ立っているのかというと…。話せば長くなるのだが、話さなければただの変な人なので、説明させてくれ。

話は今朝に遡って始めるのがよかろう…。




――『羽ばたく日まで』


天気は快晴。目覚めのよい朝だった。こんな日は、のんびり散歩なんかするのもいいかもな…などと柄にもない事を考えていた。

だから、朝の拝謁の際に『我らが女神』が「少し、外の空気が吸いたいのです。」と懇願するように言い出したのも、特に不思議だとは感じなかった。

アテナは早速、散歩に出かける準備をする。僅かにできた自由時間ぐらい望むがままに使って欲しい―――日頃からそう思っている俺たち聖闘士には、反対する理由などない。

ただし、誰かを護衛に付けるという条件だけは飲んでもらわねばならなかった。


「ミロ、一緒に来てもらえるかしら?」


目が合った俺に申し訳なさそうに小首を傾げて訊ねる女神は、普段の近寄り難いほどの気高さはどこへやら…。少女らしい仕草は子リスの愛くるしさと酷似していた。

「喜んでお供致します。」

気が付くと、俺は深く考えもせずに引き受けていた。

なぁに、ただの散歩だ。何事も起こらんさ、と高をくくっていたのである。

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