Trezoroj<Noveloj>

□人魚のしっぽ!
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ジャミール育ちのおいらには、海は大きすぎる。迷子になってしまいそうだ。

人魚みたいに立派な『しっぽ』でもあれば、水中で舞うように泳げて楽しいかもしれないけれど……。あいにくおいらは人魚じゃないからね!


―『人魚のしっぽ』―


プハッ!

貴鬼は水面につけていた顔を上げ、大きく息を吸った。流れ込んでくる空気は渇ききった喉を潤す水のように清らかで美味。遠のきかけていた意識がゆっくりと正常な機能をとり戻してゆく中、やっと貴鬼は辺り一面が海で、周りに何もない事に気付いた。

振り返り、よくよく目を凝らしてみて初めて、海岸線を確認できる…。陸地とはそれだけの距離が開いていた。『コーチ』に手を引かれ、無我夢中で足をバタバタさせていただけなのに、随分と遠くまで来ていたたらしい。

「もうダメ…。腕も足も動かないよ…。今日の練習は終わりにしよう?」

はるか遠くに見える陸地が恋しい。地に足が着かない不安は、貴鬼のやる気をすっかり凌駕してしまったようだった。

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「まだ始めたばかりでしょ?この程度で根を上げてるようじゃ、泳げるようになんかならないよ。」

貴鬼の手を引きながら泳いでいた少女―――『コーチ』であるテティスが、濡れた金色の髪を手で整えながら答えた。

「だっておいらさ、いきなり海で練習するなんて思ってなかったんだもん。」

貴鬼が唇を尖らせむくれた。その小さな手は、離れないようにしっかりとテティスの手を握っている。


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