Librobreto V

□瞳
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私は あの御方の瞳を 安らかな時の中で 今一度見たいと思った


−まだ何も知らぬ幼子であった私を

そのたおやかな腕(かいな)に収め

そうして微笑み
私の姿を その一対の紫水晶の耀きに宿して下さった

あの時の様に−


けれども その類い稀な美しさを湛える御霊(みたま)の似姿に 自らの姿を目にする事は

安息の地が喪われた時代(いま)となっては

叶わぬ願いとなってしまった




.




−私のこの両の眼は
神々の爭(あらそい)に巻き込まれた者達の
嘆きを
嗔(いかり)を
哀しみを
無念を
そして祈りの一切を

魂の軌跡を追い

記憶し続ける為に存するものだから

…そうする事が 勝利を司る『私』という存在に課せられた業なのだから−


.





そうして私は−


あの御方が主と認め 敬愛しお仕えした女神の傍ら

何時目醒めるとも知れぬ眠りにつく前に その力と私とを託した女神の元で

あの御方に穿たれた軛(くびき)を壊し
あの穏やかな時代(とき)を今再び取り戻さんと

私は幾度と無く繰返す生を以て 爭の業火の只中に この身を投じる


今生こそは相見える筈と信じて




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