Donacoj

□瞳光幻燈
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窓から射し込む、夏が過ぎてからのそれは、苛烈さが剥がれ落ち、円熟した艶やかさを纏っている。

室内へと入り込んだ光は、窓際に置かれている机を淡く輝かせ、また、机上の本の開かれた頁で即興の舞踏を演じる。

だが、規則正しく、意味を成している文字の行進の方に興味を向けていた瞬は、それを全く意に介する様子も無く、次の頁をめくろうと、指先を紙の端に添えていた。

と、机上の劇場に、飛び入りの俳優が姿を現す。

瞬は、視界に『彼』を捉えると、少しびっくりして、顔を本から離した。




「老師。」




彼の目線の先には――


『老師』と言う言葉が意味するところのものとは、およそ掛け離れた風貌の、どう見ても二十歳になるかならぬかという位の、中背の東洋人の青年が立っていた。




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「何を読んでいるのか?瞬。随分と没頭していた様じゃったが。」


「ええ。聖域周辺の村について色々詳しく知りたいと思いまして、村史を現代から遡って読んでいたんです。面白い話が沢山収められていて、時間の経つのも忘れてしまう程です。」


瞬はそう言うと、にっこりと笑った。

青年は、机を挟んだ向かいの椅子に腰掛け、左手で頬杖をつくと、瞬が手にしている書物に顔を近づける。

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