Librobreto V
□愛しき女神の為その翼を折りしもの、汝の名は…
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「−もう帰ろう?沙織さん。海風に当たり過ぎるのは体に毒だよ。」
少年は心の内を誤魔化す様に、笑みを浮かべると、羽織っていた上着を少女の両肩に掛けた。
「そう…ね。」
少女は、手先をゆるゆると少年から離すと、彼の温もりを宿した着物の端をぎゅっと握り締めた。
−何処までも、天高く翔けゆく天馬、他の誰でも無い、君でなければ駄目なのに−
−なのに、どうして君はその隣にいない?−
「…どうして僕らは、掛け替えの無い存在を…まるで哀しむ為であるかの様に傍らに見つけては、失って、そうして取り戻せないんだろう?」
思わず想いを吐露してしまった少年は、はっとして自分の正面にいる少女を見遣った。
彼女は、それは美しい面差しで−
「−掛け替えの無い存在だからこそ、気付いた時には、互いの瞳に互いの姿を映すのが認められる程に近くに在るのだと思うわ。…そして引き離されたとしても、永久に隔てられる事は無いの。…だから、幾星霜ののちにも、私達は再び巡り会う。」
そこで少女は一瞬、小さく息をついた。それから、泣き笑いにも似た表情で言葉を続けた。
「…でも…、失う瞬間には…−離れる事には、いつでも慣れる事が出来ない……。」
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