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□去りゆく刹那に想いを遺して
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「もう、こいつも潮時だな」






去りゆく刹那に想いを遺して






「何言ってるの?こんなに咲いてるのに――・・・!!」


空に消えてしまいそうなほど小さな呟きに言い返して振り向く。

瞬間、激しい風が吹きすさび、身体が持っていかれそうになった。


その強風は一瞬では止まなかった。

全てを奪い取っていこうとしているようだ。

桜の大樹はびくともしなかったが、末端の枝はしなり、それを彩り飾っていた花たちはたやすく掠われ、風に乗って舞い踊っている。



吹き荒れ続ける風の中、目に捉えたのは薄紅色の世界に佇むあの人。

まるで何事もないように静かに立っていた。


「貴方、なんで・・・!」


足にしっかりと力を入れていないと立っていられない自分とは裏腹に、その人は微笑んでいた。


一点の曇りもない笑顔ではない。

愛しさと優しさを込めていながら、瞳には哀しみや切なさを湛えて見据えていた。



淡く輝く金の髪を邪魔にならないよう片手で押さえているあの人は少しいびつな――けれど今までで一番透き通った笑みを向けながら言葉を紡ぎ出した。


「何?聞こえないっ――・・・!」


叫ぶ声が聞こえているのかいないのか、桜と同じ色を持つ唇は動き続ける。

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