試作小説。

□悲しみの中で唱える5の御題「この過ち何時になったら気付くのでしょうか?」
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†この過ち何時になったら気付くのでしょうか?†








 分かってる。
 分かってるよ、神威。

 この人は僕たちの敵だ。


 なのに。それでも。

 ・・・・・・僕は好きなんだ、この人が。










 「っ・・・ふ、ぁ・・」

 ス、と服の中に滑り込んでくる手。
 昴流は目の前にある体に腕を回した。
 ・・・弱い所を次々に攻められて。
 いつもと同じ様に泣いた。
 きりきりと肌に食い込む爪に力が入る。
 左右に首を振る。追ってくる唇から逃げる為に。

 「動きますよ」
 「やっ、待・・・・!・・あぁアア!!」

 一体何度目になるかも分からない叫びに星史郎の口の端が上がる。
 眼下で暴れる昴流の華奢な体を満足げにねじ伏せる。
 もうこれで何回、神威に秘密で抱き会ったのだろう。
 神威は星史郎さんのことを嫌っている。
 僕が星史郎さんに血を分けてしまったから。
 それが原因で僕たちは次元を飛び越え、逃げなくてはならない羽目になった。
 でも。
 僕は星史郎さんのことが嫌いじゃない。
 勿論、弟の封真くんのことだって嫌いじゃない。
 なのに神威は『狩人』と言うだけで、中身も知ろうとせず嫌ってしまう。
 この世界に留まって、この世界の時間でいうと5年。
 この世界は星史郎が辿り着くには何度も移動しなければならないという、中々辿り着けない世界らしい。
 侑子さんがそう教えてくれた。
 この世界は随分と科学が発展していて、おまけに良く分からない生き物も沢山居る。
 『魔法の国』、と僕たちはそう呼んでいる。
 ちゃんとした国の名前も在るのだが、僕たちはそう呼んで親しみを感じていた。
 だって僕たちは吸血鬼だもの。
 人間の形をした、『良く分からない生き物』。
 でも周りには沢山珍しい生き物が居て、ああ、この世界なら僕たちも大丈夫だなって思った。
 だから神威もこの世界を気に入って、5年も留まった。
 その5年の間に、星史郎さんがこの世界に着たとも知らずに。
 他の世界で気配を消す、術(すべ)を習得したらしい。
 神威に感づかれないよう、出来るだけ遠くの家に泊めてもらっていると言っていた。
 だから時々、こうして僕が星史郎さんのいる近くの町にまで行く。
 神威には散歩してくると嘘を付いて。
 
 「・・ッ、ふ・・!ぁ、ァあ・・っ・・」
 
 頭の片隅には神威の姿。
 手触りのいいシーツの上に自分の蜜がこぼれて、吸い取っていく。
 いつもの決まり。
 星史郎さんが僕を抱き上げて、静かにキスして、服を脱がすのも。
 だから指先の動きまで、完全に覚えてしまった。
 それでも毎回毎回、微妙に違う快感に僕は溺れる。
 何処で如何声を上げれば激しくしてくれるのかも。
 それには星史郎さんも気付いていたみたいで。
 限界そうな僕の顔を見ると必ずイかす。
 それこそ何度も何度も何度も、僕が如何してほしいか全て知っているかのように。
 ・・・神威、今頃どうしてるかな。
 日が沈んでる。
 帰らなきゃ・・1人じゃ、寂しいに決ってる。
 でも・・待って。
 もう少し待って。
 せめて、この快楽の大波が薄らぐまで・・

 「今日の昴流君は・・、・・・・何かを気にしているみたいですね。神威のことですか」
 「・・たぶん・・僕を待ってる、から・・」
 「ならココで今日は止めておきましょうか。遅くなって、もし僕がこの世界に居る事を知られたら・・・また、逃げられてしまう」
 「・・・・・僕たちのことを、まだ追いかけるんですか・・?」
 「ええ。僕は君たちと同じ『分類』の人間ですから。一緒になるのは・・・当然の事でしょう?」

 情事の後の気だるい空気の中、星史郎さんの声が良く響く。
 真っ白の異空間のようなこの部屋。
 ふわふわと漂ってるみたいで、僕はこの部屋でじっとしているのは嫌いだった。
 血が逆流しそうだ。
 星史郎さんが僕の髪を撫ぜる。
 服を着て、最後に抱きしめると僕はその部屋を出て、走って神威の待つ家に帰る。
 ごめんね、神威。
 遅くなって。
 ・・ゴメン、カムイ・・・

 「・・っ・・すばるぅ・・」
 「神威、ごめんね。遅くなっちゃった」
 「何処行ってたんだよ・・心配したぁ・・・」
 「道に迷っちゃって。他の人に聞いてたら遅くなっちゃった」
 
 玄関の壁に背を預けて、膝を抱えて顔を埋めていた神威。
 僕が帰ってくるのをずっと待っていたらしく、手は冷たく冷え切っていた。
 ぎゅっと抱きしめてくれる。
 細い涙を流して僕の名前を何度も呼ぶ。
 
 「ほら、もう泣かないで、ね」
 「うん・・」
 「ご飯にしようか。お昼からまだ、何も食べてないから」
 「・・・昴流?」
 「なに?」
 「・・・・俺に、何か『隠し事』してる・・?」
 「・・してないよ。如何して僕が神威に隠し事するの?」
 「それなら、いい。だって最近・・昴流、俺のコト避けてるから」
 
 そんなこと、ないよ。
 そう言って僕は神威とキッチンに向かう。
 吸血鬼は自分で血を作れない。
 だから完成している人間の血を貰う。
 吸血鬼の血は黒い。赤くはない。
 取り入れた血は吸血鬼の血と混ざり、やがて真新しい血へと転換される。
 古い血は消されていく。そしてそこに摂取した栄養分が混じっていく。
 その部分だけは普通の人間と『同じ』。
 ・・・・・神威。
 僕は・・嘘を付いてしまったね。
 神威に嘘を・・

  『隠し事、してる・・』

 それは直感的なものだったのかもしれない。
 でも当たっている。僕は秘密で星史郎さんと会っているから。
 神威に秘密で。気付かれないよう必死に隠している。
 だから抱かれた後は一緒にお風呂には入らない。
 体中に出来た赤い痕が消えるまでは絶対に。
 ・・・もう、気付いちゃってるのかな・・
 僕の行動が変だってコト。
 ・・・もう・・・他の世界に行こうって、言うのかな・・


 こんな嘘の過ち・・
 僕は、男である貴方に抱かれて快感を得ている。
 そんな過ちさえ、駄目だと分かっているのに否定できない。
 そして嫌うべき相手を好きだと思っていることを・・

 ・・・この僕の『過ち』・・
 いつになったら気付くのだろう・・
 男に抱かれることは――決してしてはイケナイコトだってことを。 






END




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